調和性も兼ね備えていなければならない

 この奏者選定のシステムについて事務局長ブラーデラーは「(採用基準は)演奏技術だけでなく、いかにウィーン・フィルの音楽に合うか、伝統的な音に調和できるかが大きな要因だ。つまり、我々の一員として演奏できるかどうかが、最も求められる資質だ」と述べている。また、楽団長フロシャウアーは次のように語っている。

「ウィーン・フィル奏者は一流のプロスポーツ選手と同じだ。常に自身を鍛え、多くのオペラのステージとウィーン・フィルの演奏で最高のパフォーマンスをあげ続けなければならない」

 ひとりの演奏者として演奏技術が優れているのはもちろんのこと、他の奏者と調和する音と表現力を兼ね備えていることを高い水準で要求する。それがウィーン・フィルのオーディションである。

血縁者が多かった理由とは

 ウィーン・フィルの奏者は1997年まで正会員は全員男性で、ウィーンで音楽を学んだオーストリア人がそのほとんどを占める、かなり同質性の高い集団だった。親子二代、三代や兄弟でウィーン・フィル奏者という団員も少なくなく、奏者の4分の1が親族に団員を持つ者で占められていた時期もある。

 血縁者が多かったのは、ウィーンの音楽文化の特徴にも起因する。ウィンナーホルンやウィンナーオーボエに代表される特殊なウィーンの楽器の演奏技術は当地で習得するしかなく、オーストリア出身の奏者が圧倒的に有利だった。

 ウィンナーホルンは内径が一般的なフレンチホルンより狭く、高音域の倍音の幅が非常に狭いために音を外しやすいという特質がある。ウィンナーオーボエは上管部分に独特の膨らみがあり、音を変えるための指使いがフレンチオーボエより複雑である。

地元で育まれる音感

 楽器の特徴に加え、ウィンナーワルツに代表されるオーストリア独特の音楽感覚や音感もまた、幼い頃の環境に左右される。物心つく頃からワルツやポルカを日常的に耳にし、年間数百回もの舞踏会が開かれる都市の土壌で育つことで養われる音楽感覚は、一朝一夕には得られない。

 それは例えば、私たち日本人が感覚的に盆踊りの手拍子を身につけ、裏拍で小節をきかせて演歌を歌うことができ、ヨナ抜き音階(ファとシを除いた音階)を受け入れやすいことに似ているかもしれない。