レコード会社の社員時代はプロデューサーとして、ミリオンヒットを10回記録するなどトレンドを牽引し、絶調期にニュージーランドに移住。その後、12年かけて独自のリモートワーク術を構築してきた四角大輔氏。彼のベストセラー『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』は、次世代ミニマリストのバイブルにもなった。
そんな四角氏と同年齢の、経営コンサルタントでありナレッジキュレーターの山口周氏がこのほど、互いの著書について対談。四角氏の『超ミニマル主義』と、山口氏の『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』の話を中心に、今の日本の課題、これからの時代の生き方、働き方などについて、3時間にわたり語り合っていただいた。(構成/伊藤理子 撮影/石郷友仁)

【山口周×四角大輔】確実に人生が変わる超カンタンな方法

山頂を目指すだけが人生ではない

四角大輔(以下、四角) 周さんは『ビジネスの未来』で、「高原社会」に触れていますよね。私たちは物質的に成熟した社会で暮らしていて、その「高原社会」でどう文化的に豊かになって、人間らしく生きるかを構想することが大切だと。個人的には共感ポイントだらけの本ですが、この「高原社会」という概念に一番感銘を受けましたね。

山口周(以下、山口) そうですか。ありがとうございます。

四角 日本社会って「山頂至上主義」だなって思うんです。心身や環境を痛めつけても、家族や他者を犠牲にしてでも、「後先のことは考えなくていいから、とにかく山頂に立て」と。みんなボロボロになって登頂できても――実際の登山と同じで――曇っていて何も見えなかったりする(笑)。

 そこで燃え尽きて動けなくなって強制的に下山となる。下でしばらく倒れているうちに復活して、また奮い立ってまた次の山頂を目指すという持続可能じゃない働き方をしている。

山口 確かに。

四角 登山で言えばこれは「ピークハンティング」というスタイルで、僕は好きじゃない。1つの山に登って降りて終わりじゃなく、山がいくつも連なる山脈を一気に踏破する「バックパッキング登山(縦走登山)」が僕の好みなんです。

 縦走登山では、一度登った後は下山することなく、ずっと山脈を歩き続ける。途中で遭遇する山に登頂してもいいし、険しい山頂へは行かず「巻き道」を使って、楽な平行移動を選んでもいい。縦走登山の目的は、山頂に立って絶景を見ることではなく、途中の風景すべてを楽しみながら歩き通すことにありますから。

山口 それはまさに、『ビジネスの未来』で提案した、「未来のためにいまを犠牲にするスタイル」から、「今を豊かに瑞々しく生きるスタイル」への転換と同じ考え方ですね。

四角 そうなんです。重い荷物を背負って死にもの狂いで山頂を目指す「高度経済成長期スタイル」ではなく、最小限の荷物で軽快に歩き続ける「サステナブルな働き方」にシフトすべきだと。

 仕事で大きな成果を出す、つまり高い山へのこだわりも否定しませんが、縦走登山において山頂は、ただの経由地か寄り道にすぎないんです。今や人生100年時代と言われ、山脈はまだまだ続きますから、万全な天候と体調の時に、たまに登頂すればいい。

山口 なるほど。

四角 でも、『ビジネスの未来』を読んで、日本は人類の宿願である「物質的不足の解消」を実現しつつあって、僕らは明るい「高原」にいるんだと教えられました。下山途中の谷間にいると誰もが思い込んでるけど、そうじゃないんだと。ハッとさせられました。「山脈」と「高原」には共通点もあって、胸が熱くなったんです。

山口 嬉しいなあ。僕は高原が好きなんで(笑)、例えとして使いました。ただ、個人的に「いい」と言ってくれる人はいるんですけれど、経済界からはほぼ無視されてる状態なんですよね。でも、面白いのがね、ダボス会議から連絡が来て、「ダボス会議のクラウス・シュワブがあなたの言ってることにすごく共感をしてる」と。

四角 すごい~!

山口 英語で、高原ってプラトー(plateau)っていうんですけれど、ダボス会議が出した本の中で、「プラトーソサエティ」(Plateau Society)と、私のコンセプトを紹介いただいたんです。実は、ダボス会議で取り上げられている日本の経済学の主張とかビジネスの主張ってほとんどないんですよ。

四角 そうなんですね。

山口 彼らは、今後やってくる「成長しない社会」において、日本がお手本になるんじゃないかと考えているんです。日本はあれだけ成長しているのに治安もいいし、国としてもまだ健全な方だから、お手本になり得るのではないかと。でも、それを当の日本人はあんまり認識せずに、「日本はだめだ」と言っている。

四角 この呪いも強いですよね。母国だけに、僕もつい「日本はだめだ」と思ってしまう。

山口 みんな呪いにかかってるね。悔しいんですけどね。

四角 でも周さんは、筆の力でその呪いを解こうとされてますよね。

山口 そのつもりです。でも、これは長くかかるなとも思っています。よく、「本がそこそこ話題になっているのに、世の中は全然変わってない気がするけれど、どうなのか?」という質問を受けるのですが、そんなときはいつも「だいたい100年かかると思ってます」と答えています。

四角 100年!

山口 だって今って、明治維新から150年なんですよ。植民地になってしまうかもしれない状況から、まあよくここまで持ってきたなとは思うんですが、この150年間ものすごい勢いで突っ走ってきたので、急に立ち止まれと言われても、勢いがついているからなかなか止まれない。だから、次のステージに移行するのは簡単ではなくて、あと3世代くらいかかるんじゃないかと予想しています。

【山口周×四角大輔】確実に人生が変わる超カンタンな方法山口 周(Shu Yamaguchi)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。