新総裁下で想定される金融政策の修正プロセス

 植田・新日銀総裁の一報が出た2月10日の海外時間、国債先物の価格は下落した。続く13日の東京時間、国債先物は幾分か値を戻した。一方、国内株価は下落して引けた。報道直後の一時的な円の買い戻しも加味して考えると、今すぐではないにせよ、日銀は新総裁の下で金融政策の追加修正を進めると考える投資家は増えている。

 3月19日、2人の副総裁は任期を迎える。追加的に日銀のリフレ色は薄まるだろう。日銀は独立性の回復を目指し、独自の立場から経済全体にとって長期的に有効な政策を立案、実行すべき局面を迎えている。日銀は徐々に金融政策の正常化を進めようとするだろう。

 日銀によると20年4~6月期から22年7~9月期まで、わが国のGDPギャップはマイナスだった。ただ、ここにきてマイナス幅は縮小している。それは重要な変化だ。今後の賃上げなど国内経済の展開次第では、需要が供給を上回る可能性はある。

 新総裁の指揮の下、日銀は金融システムの健全性の維持と物価の安定のために、慎重かつ段階的に金融政策の追加修正を進めるだろう。修正のプロセスとしては、以下のような流れが想定できる。

 まず、日銀は異次元緩和の効果、副作用などを総括的に検証する。その上で、新しい金融政策の枠組みに移行し、金融政策の追加修正を進める。具体的な取り組みとして、最初に、長期金利の上限引き上げ、あるいは撤廃を目指すだろう。

 その際、急激な長期・超長期金利のボラティリティー上昇を防ぐために、市場とのコミュニケーションも促進される公算は高い。その上で、中小企業や家計への打撃を緩和しつつ、マイナス金利からの脱却が目指されるだろう。

 マイナス金利政策からの脱却は、コロナ禍で実質、無利子・無担保で融資(ゼロゼロ融資)を受けてきた中小企業の事業運営に負の影響を与えると懸念される。イールドカーブ・コントロール政策の(段階的)撤廃以上に、マイナス金利政策からの脱却には時間がかかりそうだ。

 そうした金融政策の修正に伴い、中期的に国内の金利上昇圧力が増すことは間違いない。それが現実味を帯びてくると、わが国の低金利時代の終焉が近いことになる。