電話応対する男性写真はイメージです Photo:PIXTA

任天堂が10月、「修理サービス規程/保証規程」に「カスタマーハラスメント」の項目を追加したことが話題になった。それに先立ち2月、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表してもいる。企業は不当・悪質なクレーム、いわゆるカスハラから、従業員を守る対応が求められる。20年以上前からモンスタークレーマーに数多く対応してきた筆者が、カスハラの本質と具体的な対処法を指南する。(エス・ピー・ネットワーク執行役員 主席研究員 西尾 晋)

任天堂がカスハラ項目を初めて盛り込む

 任天堂が2022年10月、「修理サービス規程/保証規程」に「カスタマーハラスメント」の項目を初めて盛り込んだ。従業員に対して、脅迫や人格を否定する発言やクレームの過剰な繰り返しなどによる長時間の拘束があったと会社が判断した場合は、製品の交換や修理を断る場合があるという。さらに悪質な場合には、警察や弁護士などに連絡し適切に対処するとしている。

 実はそれに先立ち2月、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表した。ちまたでも、マスクが品薄になった時期にドラッグストアで店員に対して傍若無人に振る舞う人、あるいは航空機や入試会場、百貨店などでマスク未着用を理由にスタッフらに制止され、それに反抗した人など、コロナ禍特有のカスタマーハラスメント(以降、カスハラ)に関するニュースが増えている。

 しかし、カスハラは何も今に始まったことではない。数十年も前から、いわゆる「モンスタークレーマー」と呼ばれる人々はいた。

 ただ、「カスタマーハラスメント」という言葉が、厚労省のマニュアル公表により普及・定着するのは一つの大きな転機と捉えられる。対応に当たる担当者の尊厳や法律を無視した振る舞いや、個人のワガママをごり押しするようなモンスタークレーマーによる迷惑行為が増えたため、社会全体で対策を行う必要性が出てきたということだ。

 日本企業では従来、「お客様は神様」という価値観に基づき、顧客の意向に迎合するような対応をよしとしてきた。依然としてこのような理念に基づき、従業員がカスハラにさらされているのに、それに耐えるような顧客対応をしている企業もある。

 しかし、カスハラがこれだけ社会問題となっている現在、このような価値観は変えていかなければいけない。お客様は神様だとしても、神様の中には「死に神」のような害をもたらす神もいることを忘れてはならない。