「心理的安全性」という概念が広まりつつあります。部下の話をよく聞き、気持ちや考えを尊重することで、部下が安心して働けるようにとのことです。ただ、一方で、部下に気を使いすぎるあまり、明確な指示でビシバシと仕事を仕切っていた、かつての「ボス力」を失ってしまいそうだという上司の声も聞こえてきます。しかし、そう感じるのは、心理的安全性に対してある誤解があるからです。それを正すことで、上司として健全な「ボス力」を発揮し続けることはできるのです。(アークス&コーチング代表 櫻田 毅)
職場の心理的安全性を求められて
「ボス力」を失いつつある上司
良好なチーム・マネジメントに必要な要素の一つとして、「心理的安全性」という概念が広まりつつあります。「心理的に安心して仕事ができる職場の空気」と捉える人が多く、部下の話をよく聞くこと、部下の考えを尊重すること、あなたは役に立っていると感謝の気持ちを伝えることなど、上司は部下に寄り添うマネジメントを求められます。
ところが先日、ある企業のグループリーダーのAさんから、このようなことを言われました。
「心理的安全性と言われて部下の気持ちに配慮していると、自分の考えを強く言えなくなってしまうんです。かつては、明確な指示でビシバシと仕事を仕切ることで、部下も頼りにしてくれていたのですが。どうも、昔の『ボス力』を失っているような気がしてならないんです」
実は、Aさんと同じように、部下に気を使いすぎるあまり、上司としての「ボス力」がなくなりつつあると感じている人は少なくありません。
ただ、このように考える人の多くは、心理的安全性の本来の機能について大きな誤解をしています。それを正さない限り、Aさんのように悶々と悩み続けて、本当に「ボス力」を失ってしまう恐れがあります。
では、正しく心理的安全性を機能させ、健全に「ボス力」を発揮し続けるためには、いったい何を理解しておくことが必要なのでしょうか?