自然言語で問いかければ説得力のある回答を返してくれるAIチャットボット「ChatGPT」が話題だ。こうしたAIの進化を下支えしているのが「ビッグデータ」「アルゴリズム」「計算資源」の3つだ。中でも計算資源の中核をなすロジック半導体の開発競争が世界的に過熱している。かつて半導体王国の名を欲しいままにした日本は、この領域で勝機はあるのか。データサイエンスを通じて半導体を熟知する筆者が、日本の半導体産業が復興する上で必要な施策について提言する。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
AIの進化とともに高まる
「計算資源」の重要性
AIの進歩に必要なことは何かと問われれば、大量のデータと適切な解を導くのに不可欠なアルゴリズムに加え、潤沢な計算資源(情報処理に必要な機器)と答えるだろう。
AIがデータから最適解を探索することは多くの読者がご存じのはずだ。一方、アルゴリズムとはその推論を弾き出すための手順や計算式を意味し、このアルゴリズムにのっとってデータを処理するのがCPU(中央演算装置)やGPU(画像処理装置)などの計算資源だ。ここでは半導体(ロジックIC)と言い換えても差し支えないだろう。
データ、アルゴリズム、計算資源による「三位一体」こそ、AIの性能を左右する要であるのは確かだが、中でも、計算資源の重要性が日増しに高まっているのをご存じだろうか。
例えば、交通量の多い街中を自動運転車が安全に走行する仕組みを構築するために、現実世界と見紛うばかりの仮想空間内で設計やシミュレーションを行うには、莫大なデータを瞬時に処理できる高性能なCPUやGPUが必須だ。だが、その要求性能は幾何級数的に高まっており、計算に費やすコストも莫大になっている。
Teslaは、自動運転の学習コストが膨大なため、学習用の半導体であるD1と呼ばれるチップを多数連結させ、Dojoと呼ばれる学習用のシステムを自社で研究開発した。それによって、推論エッジデバイス向けに渡す値を日々学習・運用している。
このように、AIを使ったサービスで覇権を競うGAFAMなどの先端企業が、こぞって半導体の自社開発にリソースを投入している。その理由は、フルカスタマイズが施された半導体を手にすることが長期的な成長を約束し、コスト抑制にも寄与すると判断しているからにほかならない。
次世代のITを征する者は半導体を征する者なのだ。