日本企業の新規事業がスケールしないたった2つの理由、「失敗を恐れず」の誤解写真はイメージです Photo:PIXTA

「失敗を恐れず挑戦せよ」。ビジネスの世界では、新規事業に取り組む際に、こうした聞こえのいい言葉がよく使われる。だが、失敗にも良しあしがある。特に日本の大企業では「スタートアップと手を組み、実証実験を始めた」「DXビジネスの専門部隊を立ち上げた」などと華々しく発表したものの、収益化につながらず、いつの間にか終了していることがある。これはもちろん「悪い失敗」であり、投資額の無駄使いだ。なぜ歴史は繰り返されるのか。どうすれば脱却できるのか。米国での長きにわたる業務経験を持つ筆者が提言する。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)

日本企業が立ち上げた
新規事業はなぜ不発に終わるのか

「満を持して発表したデータビジネスがスケールしない。どうしたらいいか」――。

 先日、とある日本企業の経営を担う人物からそんな悩みを打ち明けられた。失礼ながら「またか」という思いが頭をよぎる。筆者が米国から帰国して約1年。この間、どれだけ同じ悩みを耳にしたかわからないからだ。

※注:「スケールする」とは、「事業やプロジェクトの規模を拡大する」という意味を持つビジネス用語。

 日本企業が立ち上げるデータビジネスやDXは、なぜスケールせず不発に終わるのか。

 実は、こうした悩みを抱える多くの企業には共通点がある。有り体に言うなら、極めて基本的な取り組みがなされていない、もしくは中途半端な取り組みで満足していることが大半なのだ。

 筆者は、次に挙げる二つが問題を引き起こしている要因だと考えている。業界や企業によって濃淡があるのは承知の上で、あえてこれらを指摘しておきたい。

・大局観のなさと準備不足
・若者に責任を与えない人事慣行

 一つ一つ、その中身を見ていこう。

課題(1) 大局観のなさと準備不足

 何年も前にメディアを通じて耳にし、注目していた野心的なプロジェクトがいつの間にかクローズしていたことを後から知り、がっかりすることがある。

 ことの経緯はどうあれ、事業の失敗から学ぶべきものは多い。敗因を詳細に分析し、そこから得た教訓を本当の意味で次に生かせれば、いつの日か「得難い経験だった」と、振り返ることもできるだろう。

「失敗を恐れず挑戦せよ」。人々の背中を押す、素晴らしい言葉だ。こうした言葉に勇気づけられる人は多い。筆者自身もそのひとりだ。

 しかし「失敗から学ぶ」「失敗を許容する」といった、耳あたりの良い言葉には大きなワナが潜んでいるのをご存じだろうか。