優秀なIT人材の採用に成功し、ビジネスの最前線に投入できる企業と、採用すらままならない企業との間にはどのような違いがあるのだろうか。データサイエンティストでありながら、人材獲得にも深く関わってきた筆者の実体験をもとに紹介する。また筆者の考えでは、優秀なIT人材を獲得したい日本企業は、出身大学で採用の可否を決める“愚かな選考基準”から脱却すべきである。そう言い切れる要因についても解説していく。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
データサイエンティストが自ら
高度IT人材の採用に関わる理由
前回は、優秀なIT人材(データサイエンティスト、データエンジニアなど)の採用に苦戦する日本企業の実情に触れた。
なぜ採用が難しいのか。その理由は間違いなく、増大し続けるデータ分析需要に対し、それに応える技能を持つ人材の供給が追いついていないことである。だが、その一方で、データサイエンティストなどの獲得に成功している企業も存在する。
優秀なデータサイエンティストやデータエンジニアの採用に成功し、ビジネスの最前線に投入できる企業と、採用すらままならない企業との間にはどのような違いがあるのだろうか。
今回は、日本企業で高度IT人材の採用がうまくいかない理由や、組織への定着を阻害する課題について、筆者の実体験をもとに紹介していきたい。
前回も触れた通り、筆者は日米でデータサイエンティストチームを率いていた経験がある。現職に就く直前まで、北米に限らず、主要国22カ国でデータアナリティクス関連サービスの事業責任者を務めており、データサイエンティストやデータエンジニアの採用にも関わっていた。
前職は、データサイエンスの世界でも広く名が通ったグローバルファームだったこともあり、ひとたび採用ポジションを公開すると多くの応募が集まった。しかし優れたデータ人材の争奪戦は激しく、同業他社を含め多くの企業と奪い合いになった。
そのため筆者は、絶対に取りたい人材に対しては、確実に入社してもらえるよう最善を尽くすことを責務とし、採用にかなりの時間と労力を割いていた。
新型コロナウイルスが世界を覆い尽くす前の話だが、入社に迷いがあるマネジャー、リーダー候補がいれば対応を人事部任せにせず、自らクロージング役を買って出た。米国エリアはもとより、状況が許せば欧州やアジアに足を伸ばすことも珍しくなかったほどだ。
なぜそこまで力を注いでいたかといえば、優秀な人材をチームに加えることは、売り上げや利益に直結するキーサクセスファクター(重要成功要因)でもあるからだ。
特にわれわれが求めている人材は、データサイエンスの本質を捉えていない“素人”にマネジメントされるのを嫌う傾向が強い。