夢と働きがいをビジョンに結びつけ、うまく拾っていくしくみ

 グローバルな人材とは、「自分の夢を会社のビジョンと重ねあわせて違和感なく語ることができる人材」ということができるのかもしれません。もちろん、最初からそのことができたわけではなく、数々の挫折と成功を繰り返してきた結果といえるでしょう。そのような経験がバックボーンとなって、いまの彼らがあるのです。

 このようなグローバルな人材は、また、グローバルな人材を育てるのにふさわしいリーダーでもあります。夢をもつ彼らには、人に共感を与える対人影響力があるのです。

 彼らは人に共感を与えていく過程でさまざまな国の文化や思考を受け入れています。ビジョンだけでは対人支配力しか育ちませんが、多国籍なビジネスを展開するなかで、その対人支配力の枠を超え、対人影響力をもつようになってきたのです。

 多くの会社では、ビジョンを明確に打ち出し、その実現の手段として短期・中期での経営戦略を編み出していきます。それは間違いではありません。しかし、その経営戦略を個々のビジネスマンのワーク、そのワークのプライオリティ(優先順位)、さらには一つひとつのワークをやっているときの「働きがい」といったものに結びつけて考えたとき、はたして「夢をともなわないビジョンでよいのか」という思いが私にはあります。「夢というストラクチャー(構造)で一人ひとりの働きがいをビジョンにつなぎ、うまく拾っていくしくみ」が必要なのではないか、と考えるのです。

周囲を巻き込むためには夢を設計する力が必要

 私にも数十名の部下がいます。男性もいれば女性もいて、年下ばかりではなく年上もいます。育った環境も、それぞれが異なります。

 そういった部下との組織としてのビジネスのなかで、最も一体感が高まる瞬間は「夢」を共有できているときです。目標の達成も重要ですが、目標の達成によって「夢の実現」に1歩近づいたことを実感できることが重要なのです。

 会社としてはビジョンを打ち出し、経営戦略を立て、部下の一人ひとりはその経営戦略に対してそれぞれの役割に応じたビジネスを展開し、ワークに落とし込んで毎日の仕事をやっていきます。当然ながら、ビジョンや経営戦略の段階から、それぞれのメンバーは意見をもち、その意見には賛成もあれば反対もあります。

 その賛否両論を乗り越える手法の一つが、「夢を語り合うこと」のような気がします。会議でもいいですし、飲み会でもかまわない。個々人が自分の夢を語り、その実現に向けていま何をやっていくべきか、という視点で自分のビジネスとの折り合いをつけていき、組織としての一体感を育てていく。

 リーダーには、そのような機会をメンバーとつくることが求められます。私はそれを「夢の設計」と呼んでいますが、厳しい経済環境下、リーダーには「夢を設計する能力」がこれまで以上に欠かせないものと感じています。

 夢が先か、ビジョンが先か。後述するような創業者タイプの人は夢が先にあり、事業を伸ばしていく過程でビジョンが肉付けされていくでしょうし、それとは反対に、「まず会社をつくり、ビジョンを打ち出し、そのなかで夢を実現させよう」という人もいます。それはどちらでもかまいません。

 ただし、このことによって周囲を巻き込んでやる気を起こさせていくには、ビジョンだけを伝えるのではなく、パーソナルな夢をビジョンにむすびつけて伝えていく必要があるのです。

 夢はさまざまです。「お金持ちになりたい」とか「のんびり暮らしたい」とかも夢です。ただし、組織としてやっていくにはこの夢に共感してくれる人が必要で、その共感してくれる人を探しだし、ともにやっていこうと思ってもらえることが欠かせません。

 「夢の設計」とは、その共感の輪を広げる筋道と考えてください。自分以外の第三者にも自分の夢を理解してもらうためには、どのように夢を解釈したらよいのだろうか、そして、どのように表現したらよいのだろうか……。その答えが「夢の設計」なのです。