最初は慣れない「夢の対話」だけれど……
日本の企業では、えてして夢を語ること、また、メンバーと夢を語り合うことに慣れていないのかもしれません。それをやってしまうと、どうしても浮いてしまうような組織風土があるものです。それを避けるためか、よく行われる企業戦略についてのプレゼンテーションなども、とても理路整然としてドライな印象を受けます。
ところが外資企業では、かつてはそのような傾向もあったのかもしれませんが、いまは違います。個人の夢を語ることを“グリップ”として、戦略、さらにビジョンに結びつけていく手法をとっていくのです。これを公私混同と捉える向きがあるかもしれませんが、私はむしろ公私関係なくオープンにする土壌が発揮されたものと捉えています。
私の部下でも、日本の大学を出て入社した当初は、「夢を語る」のが苦手です。「自分の夢を会社のビジネスのなかで実現する」という感覚がもてないのかもしれません。一方、いきなり新人に「社会に貢献したい」といわれても、歯の浮いたセリフに聞こえるものです。
それでも、働いて数年が経てば、若い社員も「どんな会社にも、いろいろな商品やお客さんがいて、それらが企業の資産であり、その資産を通じて新しい提案ができたらいいな」と思うようになるものです。その延長線上には必ず夢がある。若い社員自身にはまだ表現できないその夢をリーダーが汲みとることができれば、結果的に若い社員のキャリアアップにもつながり、有能な人材に育っていくのです。
創業者はビジョンと夢とが一致することが強み
日本企業のトップが集まるミーティングに参加したときのことです。大手企業の経営者は雑談のときになっても、自社製品の機能とか、自社のベネフィットのことばかりを話していました。
そのなかにあって、一人Cさんだけが、「自社の研究成果を通じて世の中を豊かにする」と自社のビジョンを熱く語っていました。多くの日本人経営者が「自社の研究成果」ということを熱く語るのに対して、Cさんだけがそこはさらりと流し、「世の中を豊かにする」ということを熱く語っていたのです。私はCさんの言葉にビジョンだけではない夢を感じました。
Cさんは、ほかの経営者と何が違っていたのか。大きな違いは、Cさんは創業者であることでした。
創業者はビジョンとドリームとが一致しています。そこが最大の強みです。もちろん、創業から紆余曲折、さまざまな艱難辛苦はあったでしょうが、それを乗り越えていまがある。ビジョンとドリームを一致させたCさんの発言も、だからこそ説得力があるのです。
Cさんは世界の貧困を目の当たりにして、「その貧困をなんとかしたい」と、日本であればどこにでもいる微生物の研究を始めた。その研究成果が「健康につながる」と確信して事業化。いまは、スポンサーもついて、事業は急拡大しています。
海外トップ層との付き合いでは、ビジョンと夢を融合させて話ができることが求められます。ビジョンだけでは人は共感しません。そこに夢があってこそ、さらにビジョンと夢が一致してこそ人は共感し、意気投合し、強い絆ができるのです。
(次回は2月22金曜日更新予定です。)