ここ数年、中国の女性の間で、社会学者・フェミニストの上野千鶴子さんがブームだ。著作が次々と中国語訳されてヒットしているほか、2月にはあるインタビュー動画が“炎上”する騒ぎも起きている。最近雑誌で報じられた「おひとりさまではなく、『入籍』していた」という話題も、すぐに中国に伝わったという。ブームが起きた理由、どんな人たちがどんな気持ちで支持しているのか、そして動画がなぜ炎上したのかについて解説する。(日中福祉プランニング代表 王 青)
中国でブーム、出版界では「2022年は上野千鶴子の年」の声も
ここ数年中国では、日本の社会学者で東大名誉教授の上野千鶴子さんの人気が、ブームと言っていいほど高まっている。著書が次々に翻訳され、中国の出版界では「2022年は上野千鶴子の年」と言われるほどだ。
彼女の著作のうち、中国でもっとも有名なのは、『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(中国語版『厭女』)。また、作家・鈴木涼美さんとの共著『往復書簡 限界から始まる』(中国語版『始于極限』)は、中国の大手ソーシャル・カルチャー・サイトの豆瓣(ドウバン)で、2022年の総合第1位に選ばれ、十数万部売れたという。
上野さんが中国で注目されるようになった最大のきっかけは、2019年に東京大学の入学式で述べた祝辞だった。中国語の字幕付きの動画がSNSで広く拡散され、大きな反響を呼んだ。祝辞の中で上野さんは、「社会に出ればもっとあからさまな差別がある」「頑張っても報われない社会があなたたちを待っている」、そして、東京大学にまで入れた恵まれた環境と能力を「自分が勝ち抜くためだけに使わず、恵まれない人々を助けるために使ってください」と東大生に向けて語りかける。
このメッセージは中国の若者の心に響いた。なぜなら、中国では、経済格差と地域格差により大きな「不公平」が生じている。農村出身の若者は、同じ年代の都市部の若者より、何十倍の努力をしなければ、同じスタートラインに立つことすらできない。生まれながらの格差が大きすぎて本人たちの努力ではどうにもできない、厳しい現実があるからだ。