「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と断言し、その悩みに明確な答えを与えてくれる「アドラー心理学」。日本では無名に近かったこの心理学を分かりやすく解説し、世界累計1000万部超のベストセラーとなっているのが『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の“勇気シリーズ”です。
この連載では、『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、アドラー心理学の教えに基づいて、皆さんから寄せられたさまざまな悩みにお答えします。
今回は、結婚願望はあるけれど独身生活にも満足しているという女性からのご相談。岸見氏と古賀氏がアドラー心理学流に、「結婚」をどう考えればよいかズバリ回答します。(構成/水沢環)

『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者があなたの悩みに答えますイラスト:羽賀翔一

今回のご相談

 40代未婚女性ですが、結婚願望があります。アドラー心理学では共同体感覚があれば結婚できると考えると理解していますが、私は結婚できた先に共同体感覚を実感できるのではないかと疑問に思っています。また、実のところ独身生活に困っておらず、そのため婚活にも身が入りません。結婚を叶えるためのアドバイスをお願いします。(40代・女性)

「アドラー心理学流」回答

岸見一郎 まずは「共同体感覚」について簡単に説明しましょう。アドラーは、人と人は敵対しているのではなく繋がっていると考えました。そう考えられるようになると、他者を競争相手ではなく「仲間」だと見なせるようになります。そうした繋がりのなかに「自分の居場所がある」と感じられることを「共同体感覚」と呼ぶのです。

 たとえば「この人と強い繋がりを感じられる」とか「この人とだったらずっと一緒にいられる」と思えたならば、「自分はこの人との関係の中で共同体感覚を持てている」と考えてよいでしょう。

 そして質問者さんがおっしゃっているように、結婚してから共同体感覚がより実感できるということは当然あります。結婚する前にいろいろ想像しても、結婚してみたら全然違うということもありますが。

 ただ、対人関係は結婚する前も後も基本的には変わりません。結婚すればなにもかもがガラリと変わるわけではないのです。だから、結婚相手を見極める際には、お互いが共同体感覚を持っているかが一つのチェック項目になると思います。

 結婚では自立している二人が一緒に生活することが大切です。どちらか、あるいは双方が相手に依存するような形では、きっと結婚してからも上手くいかないでしょう。ですから、「一人で人生を楽しめるけれども二人で一緒にいるほうがより楽しめるかもしれない」と思えたときに、結婚に踏み切られたらいいのではないかと思います。

古賀史健 以前、たしか思想家の吉本隆明さんだったと思うのですが、すごく面白いことをおっしゃっていました。「大学に行くべきか、行かないべきか」という議論のなかで、「基本的には行かなくてよい。だけど『大学ってこの程度なんだ』ってことを知るためだったら行く価値はあるかもしれない」とおっしゃっていたんですね。

 一度も大学に行かなかったら、「あのとき行っておけば」「行ってみたかったな」と後からいろいろ後悔するかもしれないじゃないですか。だから、たとえ行った後に「行かなくてもよかった」と思ったとしても、それを知るためになら、行ってみるのもいいんじゃないかと。僕は結婚もそれに似たものがある気がしています。

 質問をうかがって、この方は結婚というものをゴールのように考えていらっしゃるのかなと思いました。一旦そこから頭を離してみるといいのかもしれません。

 なぜなら、結婚という形式は書類上の話にすぎないからです。結婚という形にこだわるより、自分にふさわしいパートナーを見つけることのほうが大切です。パートナーというのは、異性に限った話でもありません。たとえば同性でも、心から信頼できる人が人生のなかに一人でも二人でもいたら、その人生は素晴らしいものだと思います。

 実際、僕の海外の知り合いにも事実婚の人がたくさんいます。彼ら・彼女らはそれで普通に幸せに暮らしています。もちろん、今一人の生活に十分満足されているのであれば、そのシングルライフを満喫する手もあると思います。

(次回もお楽しみに)