「隠れた資産」を見つけ出し
徹底的に磨く

 では、レジャー産業として、私たちにできることは何か。これまでの「スキー場」という固定観念を取っ払うことで、新たにできるようになることがあるのではないか。

 それを考えるうえでのキーワードが、「隠れた資産を見つけ出し、徹底的に活用すること」でした。この山頂での作戦会議から現在にいたるまでずっと、私たちは「馬鹿の一つ覚え」で、ひたすらこのことを考え続けています。

「隠れた資産」とは、簡単に言えば、「磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっているもの」です。

 すでにそこに存在しているものを活用するので、ゼロベースで何かをつくるよりもコストも時間も少なくてすみます。お客さんから見ても「なぜそこでそのビジネスをやるのか」が伝わりやすくなります。

 ですから、本当にポテンシャルのある「隠れた資産」を目利きすることができれば、成功確率は格段に高まります。

 この「隠れた資産の発見と活用」が、経営を考えるうえでの重要なテーマになります。そこで、そもそもこの「隠れた資産」とはどういったものか、少し詳しく私の考えを説明させてください。

「隠れた資産」には、大きく3つのカテゴリが存在します。

(1)モノ
 土地や建物、機械などの物理的な資産や、その土地固有の景色などのうち、現在その価値をフルにお客さんに提供できていないものです。

 観光業界で「隠れた資産」を活用し、人気を博したことで有名になった例に、長野県阿智村の星空ビジネスがあります。阿智村はもともと、環境省による全国星空継続観察で「星がもっとも輝いて見える場所」第1位に認定されていました。しかし2010年くらいまでは昼神温泉やスキー場といった既存の観光施設に頼った集客しかできておらず、徐々に来訪者数も減少していたと聞きます。

 そうした中、ヘブンスそのはらSNOW WORLD運営会社の社長であり、阿智昼神観光局の社長を兼務されている白澤裕次さんたちが、星空を売りにしたツアーを2012年に開始。「きれいな星空」という、もともとあった(が、活用されていなかった)コンテンツに着目し、徹底的に磨き上げました。

 タクシーの車内に液晶ディスプレイを設置し、CMを流すことで広告収入を得るタクシーエムも、「隠れた資産」を活用した好例です。これまで誰も活用しなかった「タクシーの座席の背面」を、見事にマネタイズしました。

「隠れた資産」とは、このように「多くの人が気づいていなかったが、手を加えたり、経営上のアテンションを当てたりすることで、急に輝きを増す資産」のことです。

 こういう資産は、実はどこの会社にも、どの地域にも眠っているものです。