脱走され、腰痛でも追いかけ、仲直り…70代「障害者支援員」のリアル奮闘記写真はイメージです Photo:PIXTA

身の回りのお世話、毎日の話し相手、逃げ出した利用者の連れ戻し。施設などで障害者の支援を担う、障害者支援員の日常だ。個性も特徴も異なる利用者の対応は、常にマニュアル通りとはいかない。腰痛とも戦いながら利用者に向き合い続ける、70代障害者支援員の奮闘を紹介する。本稿は、松本孝夫『障害者支援員もやもや日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。

腰痛でも追いかける
70代障害者支援員の奮闘

 ヒコさんは頻繁に無断外出をする。ホームを飛び出して近くの薬局に入り込んで床に寝そべってしまい、薬局の人から電話がかかってくる。近所の小さな工具専門店に入り込み、ノコギリやスパナなどを持ち出そうとする。バスで25分もかかる駅まで歩き、ショッピングモールの試食を食べ歩き、そこから自宅に向かって延々と歩く途中、疲れて道に倒れパトカーに保護される……。

 ある休みの日、私は持病の腰痛を発症してしまった。2年に1回くらいの間隔で忘れたころに起きる。その日一日しっかり寝ていたら歩けるようになり、ゆっくり動作すれば、なんとか炊事・掃除はできると思い、出勤した。

 こんな状態だから、今日は突発事件が起こりませんように……と祈っていたが、日ごろ信心もないからまったく効果はなく、ことは起こった。

「ヒコさんが外に出ているよ」

 教えてくれたのは、この日もヒガシさんこと東田壮太さんだ。この日の遊軍職員の吉川春江さんに断ってから、玄関に向かった。

「吉川さん、すいません。ちょっと追いかけてきます」
「腰、大丈夫? 無理しないほうがいいわよ」

 夕食の支度に取りかかっていて手が離せない吉川さんは、気づかわしげに声をかけてくれる。吉川さんは明るくあっさりした性格の50代の主婦で、今日の相棒が彼女で良かった。よく相棒になるもう一人のクセの強い主婦・松岡さんだったら、金切り声で騒ぎ立てられるだろう。

「大丈夫です。走りませんから。あと、よろしくお願いします」

 ヒコさんが行った方向なら公園だろう。ホームから歩いて5分くらいのところに団地があって、その隣に小さな公園がある。以前、逃げたときに、そこでうろついていたことがあった。

 でもこんなにゆっくり行ったんじゃ、公園は飽きてもう遠いところへ行ってしまったかもしれない。公園にいなかったら、ホームに戻って西島さんに電話して、恥ずかしながら腰痛のことも含めて、報告するしかないと決めた。