新入社員の頃に読んでおくべきだったと、これほど悔しい気持ちになった本はない。NHK「おはよう日本」でも取り上げられ、新入社員のバイブルとして60万人以上のビジネスパーソンに読みつがれている『入社1年目の教科書』。多数の企業で新人研修のテキストとして採用されている「新社会人のためのガイドブック」だ。
ライフネット生命保険株式会社の共同創業者・岩瀬大輔氏の語る「50のルール」は、キャリアの長いベテラン社員や、指導する立場のマネージャー層にとっても発見の多いものばかりだ。本稿では、本書から得た学びとして、「仕事を頼まれたときにするべき確認事項」について、お届けする。(構成:川代紗生)

入社1年目の教科書Photo: Adobe Stock

矛盾する指示に困惑する入社1年目

「言われたことだけやってどうするんだ! 指示以上のことをやれ!」
「どうして言ったとおりにしないんだ! まだ新人なんだから、余計なことをするな!」

 入社直後、上司や先輩からの矛盾した指示に、混乱している新入社員も多いのではないだろうか。

「今日までにこの資料をまとめておいて」と上司に指示をされ、先輩に聞いたり、過去のデータを調べたりしながら、なんとか終わらせて提出する。

 上司は一通り資料を眺めたあとで、「私に指示されたことをそのままやるだけだったら、チームに貢献できてないよね。デキる人は、頼まれたことだけじゃなくて、付加価値をつけて仕事をするものだよ」とフィードバックをされる。

 そうか、プラスアルファでできることを探さなくちゃといろいろ模索していると、今度は「言われたことだけやってて!」と叱られる。

仕事を依頼されたら確認するべき2つのポイント

 そういうことが積み重なると、どちらが正解なのかわからなくなり、もはや、何かを頼まれるだけで恐ろしくなってしまうものだ。

 筆者も、組織がどのように回っているのかも、管理職がどれほど忙しく、さまざまな仕事を抱えているのかも知らなかったため、どう行動すればいいかわからない時期が長かった。

 当時の自分が、「上司から仕事を頼まれたときにするべきこと」をしっかりと把握していれば、もう少し早く、いや、かなり早く、「できない新人」を卒業できたのではないかと思う。

『入社1年目の教科書』には、仕事を依頼されたときに真っ先に聞かなければならないこととして、2つの質問が提案されている。

仕事を頼まれたらまず「いつまでに必要か」を確認する

 一つ目の質問は、「いつまでに必要ですか?」だ。

 著者・岩瀬大輔氏は、この「期限を聞く」ことの重要性について、こう語る。

仕事の優先順位をつけるうえで、最も重視すべきは締め切り日です。これを逃してしまっては、いくら出来栄えが良くても意味はありません。
30分後に来るお客さまのために必要な資料であれば、重要なポイントに焦点を当てたレポートを作るべきです。来週までに送りたいという指示であれば、関連したニュースを添えることもできるでしょう。納期によって、仕事のやり方は変わってくるものです。(P.26)

 入社1年目の頃は、指示がコロコロ変わる上司のことを、「理不尽だ」「一貫性がない」と感じることも多いだろう。「このあいだ自分で言ったことをもう忘れてしまったのだろうか?」と疑問に思うかもしれない。

 でも実は、「矛盾」に感じる上司の言葉は、岩瀬氏の言うように、「期限」を聞きさえすれば解決するケースが多いものだ。急ぎの仕事なのか、じっくり時間をかける仕事なのかによって、上司の求める成果は変わるからだ。

 この、「期限」という点を軸に上司の言葉を紐解いてみると、

「どうして言ったとおりにしないんだ! まだ新人なんだから、余計なことをするな!」
→急ぎでやってほしい仕事だったのに、やたらと時間をかけていた

「言われたことだけやってどうするんだ! 指示以上のことをやれ!」
→作業をする時間はあんなにあったのだから、もっと工夫してほしかった

 という意図だった、とも解釈できる。

「資料のコピー」こそ差をつけるチャンス

 さらに本書によると、もう一つ、必ずしておくべき質問があるという。

 それは、「何のためですか?」だ。

「資料のコピー」や「データの入力」のような単純作業でもあなどってはいけない、と岩瀬氏は言う。

 たしかに、「この資料、コピーしといて」と言われたら、ほとんど無感情でコピーを取りに行きたくなる人が多いだろう。他の雑用が溜まっているときに頼まれたら、ついイライラしてしまうことも、ため息が出そうになることもあるかもしれない。

 しかし、単純作業だからこそ、他の新人と差をつけるチャンスなのだ。

上司からのオーダーは、そのプロジェクト全体から切り出した一部分です。通常であれば細かい注文までは出してきません。しかし、どんな単純作業にも必ず背景があり、大きな目的に沿って動いているのです。
だとすると、一つ一つの仕事がどこを目指しているのかを知ることで、退屈な単純作業の意味は激変します。モチベーションも上がるのではないでしょうか。(P.27-28)

 一口に「資料のコピー」と言っても、上司個人の予備として保管するためなのか、お客さまに配布するためなのかによって、コピーのやり方は変わる。

 次の商談でお客さまに配布するためのものならば、「会社のパンフレットも一緒に用意しておきましょうか?」と、追加で提案することもできるかもしれない。

 そう、「いつまでに必要ですか?」「何のためですか?」と質問することは、結果的には、自分のためでもあるのだ。

 何の意味があるのかわからないままでは、「やらされ感」が拭えない。仕事の目的がわかれば、チームの一員として働いている実感も得られる。

「それくらい、自分で考えろ」と言われたときの返し方

 一つ、注意点として、いきなり「何のためですか?」という問いを発すると、反抗的な態度をとっているととられる場合もあるため、聞き方には十分、気をつけたいところだ。

 いったんは「わかりました」と答え、そのうえで「それは何のために使うのですか?」と尋ねるのがスムーズだろうと、本書には書かれている。

 ただ、もちろん、いろいろ聞いたところで「それくらい、自分で考えろ」と簡単には教えてくれない上司もいる。一度は反論してみるべきだ、と岩瀬氏は言う。

「もちろんやります。でも、お聞きしたほうが良い仕事ができると思いますので、差し支えなければ、何のために使うか教えてください」
それでも教えてもらえない場合は、しつこく食い下がる必要はありません。
しかし、皆さんには聞く権利があることだけは認識しておいてください。(P.29)

 仕事の全体像が見えないときは、不安でたまらず、出勤することすら億劫になることもあるだろう。上司や先輩と距離を縮められず、不安な人も多いだろうと思う。

 逆に、腫れ物のように扱われ、必要なダメ出しをしてもらえず、このままでは成長できないのではないか、と心配な人もいるかもしれない。

 そんな人にとって、本書は、頼れる先輩のような存在になってくれるだろう。

『入社1年目の教科書』の「50のルール」は、「これさえ押さえておけば間違いない」という基本中の基本ばかりだ。

 岩瀬氏の、厳しさと優しさが混在する語り口はバランスが良い。まるで、頼れる先輩が語りかけてくれているような親しみやすさもある。

 毎日1ルールずつ読むだけでも良いだろう。50日後には、「仕事とはこういうものだ」というイメージが、わかるようになっているはずだ。