「元・日本一有名なニート」としてテレビやネットで話題となった、pha氏。
「一般的な生き方のレールから外れて、独自のやり方で生きてこれたのは、本を読むのが好きだったからだ」と語り、約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した。
本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介する。
すべて進化のしわざ
みなさんは普段、健康的な生活を送っているだろうか。
僕は、全然だめだ。
運動が嫌いだし、ジャンクフードが大好きだし、夜ふかしばかりしている。そのせいで、いつも肩こりや腰痛に悩まされている。
もっと運動したりしたほうがいいのは、頭ではわかっている。わかっているけど、面倒くさくて、どうしてもできないのだ。
「健康な生活ができない自分はなんてダメなんだろう」と思うこともよくある。
だけど、そんな自分のダメさはしかたないのだ、と思わせてくれる本だってある。
『人体600万年史』は、僕らが太りやすいとか腰が痛いとかいう悩みを持つのは、僕らが悪いわけではなくて、進化のせいだ、ということを教えてくれる進化医学の本だ。
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なぜ私たちはこんなに太りやすいのか? なぜ私たちは時々食べ物を喉につまらせるのか? なぜ私たちの足は土踏まずがつぶれて扁平足になってしまうのか? なぜ私たちの腰はこんなに痛みやすいのか?
『人体600万年史』より引用
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進化医学とは、進化論を使って、医学について研究する学問だ。
人間がかかる病気はすべて進化の中で生まれてきた。
たとえば、病原菌が体内に侵入したときに、吐いたり下痢をしたりするのは、病原菌を排出するためだ。
そういうときに嘔吐や下痢をしない個体は、生存率が低くて淘汰されてしまった。だから人間は、みんな嘔吐や下痢をするようになっている。
そんなふうに、身体に起こる大体のことは進化論で説明できるのだ。
体は太るようにできている
現代人は、なぜ肥満に悩まされるのだろうか。
それは、昔の狩猟採集時代にはそんなに豊富に食べ物がなかったため、人体はカロリーを効率的に体に蓄えておくように進化したからだ。
当時は炭水化物を食べることは少なかったので、人間の体は炭水化物を見るとたくさん食べたくなるように適応してしまった。
だけど、現代社会では炭水化物はいくらでも安く手に入る食物だ。だから、つい夜中にポテチを食べてしまったりして、そのカロリーが効率よく体に蓄えられてしまう。
つまり、環境と遺伝子のミスマッチが、僕らを苦しめているのだ。
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たとえば旧石器時代の狩猟採集民は、定期的に食糧不足に直面していたし、きわめて活発に身体を動かさなければ生きていけなかったから、エネルギー豊富な食物を切望し、休めるときは常に休もうとする方向に自然選択が働いて、脂肪を蓄積しやすい身体になり、より多くのエネルギーを繁殖に費やせるようになった。そうした進化論的な視点から見ると、現在のダイエットやフィットネスのプログラムが成功しないのは想定内で、事実、ほとんどが失敗している。それもそのはず、私たちがドーナツを食べたがるのもエレベーターを使いたがるのも原始的な衝動から来ることで、かつては適応的だったそれらの衝動にどう対抗していいかを、私たちはいまだ知らないからである。
『人体600万年史』より引用
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進化心理学では「人間の脳には現代社会に適応していない部分がある」という考えがあるけれど、それは脳だけでなく、肉体についても同じことが言える。
僕らが肥満や近視や腰痛などの病気に悩まされるのは、人間の体が狩猟採集時代からそんなに変わっていないのに、生活スタイルだけがその頃とまったく違うものになってしまったことが原因なのだ。
1978年生まれ。大阪府出身。
現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出合った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。
著書に『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)のほか、『しないことリスト』『知の整理術』(だいわ文庫)、『夜のこと』(扶桑社)などがある。