「危機の火種」は依然残っている
金利上昇によって資産価値が下落し、投資ファンドが苦境に陥る――こうした事態は、過去も繰り返されてきた。リーマンショック以前、証券化商品に投資を行うファンドが急増した。多くが短期で資金を借り入れ、満期償還までの期間が長い資産に資金を投じた。金融市場が安定している間は、さほど大きな問題は起きない。
しかし、07年の年初以降、米国の住宅価格下落が鮮明化し、同年8月には「パリバショック」(仏金融大手BNPパリバ傘下の投資ファンドの運用行き詰まり)も発生した。世界的に、「売るから下がる、下がるから売る」といった負の連鎖が鮮明となり、金融市場は混乱した。その結果としてリーマンショックが発生した。
商業用不動産ファンドが一斉に苦境に追い込まれ、世界経済と金融市場が大きく混乱するリスクは、23年4月上旬の時点ではそれほど高くはない。しかしながら、危機の火種が残る中、世界的にインフレは高止まりしている。一例としてサウジアラビアの追加減産により、原油価格にも押し上げ圧力がかかりやすくなった。
インフレ懸念が残る中で、FRBやECBなど中銀が短期間で金融緩和に動くことは難しいだろう。むしろ米国では政策金利の高止まりが続く可能性が高い。それに伴い、景気後退の懸念が高まり、貸倒引当金の積み増しによって業績が悪化する金融機関が増える可能性がある。
そうした状況下、米国をはじめ商業用不動産市場の下落が鮮明化し、多くの投資ファンドが厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない。4月3日、ECBは「商業用不動産ファンドの増加は、ユーロ圏における潜在的な金融システムの不安定性を高める恐れがある」との懸念を表明した。
米欧の金融機関に対する不安は取り敢えず後退したかにみえる。ただ、商業用不動産などの投資ファンドが、今後の金融危機の火種になるリスクは頭に入れておいた方がよいだろう。