不動産大手において過去1年で足を引っ張ったのはホテルと商業施設だった。賃貸収入で見ると、商業施設の比率が低くオフィスビル比率が高い会社は、その逆の会社に業績で勝った。しかし、ここにきてオフィス賃貸が足を引っ張る存在へと変わり始めた。特集『戦慄のK字決算』(全17回)の#16では、不動産市場の次なる異変を追う。(ダイヤモンド編集部 大根田康介)
SAPがオフィス面積半減で移転
住不のビル1棟が丸ごと空室に
欧州最大手ソフトウエアSAPの日本法人であるSAPジャパンとグループ会社のコンカーは2月、大規模なオフィス移転計画を明らかにした。リモートワークが浸透したことを受け、オフィス面積を55%減らすことにしたのだ。
SAPジャパンはこれまで都内で住友不動産の半蔵門駅前ビル1棟を借り上げていた。そこから三井物産と三井不動産が東京・大手町で開発した大型複合施設Otemachi Oneにある三井物産ビルへ4月に移り、半蔵門駅前ビルは丸々1棟空室になった。
コロナ禍を機にリモートワークが普及し、企業にオフィス縮小の波が押し寄せている。これによってオフィスの空室が急増中だ。1年前の東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の平均空室率は1%台だった。それがこの3月末に5.42%まで上昇した(三鬼商事調べ)。
不動産大手において、2021年3月期通期予想で利益率が大きく落ち込む会社の共通点は、コロナ禍の影響をもろに受けたホテルや商業施設などが足を引っ張ったことだ。三井不動産や東急不動産ホールディングス(HD)がこれに苦しんだ。
対してオフィス賃貸は、各社にとって安定的な収益の柱だった。そのオフィス賃貸がここにきて足を引っ張る存在へと変わり始めた。