貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛#3Photo:Issarawat Tattong/gettyimages, PIXTA

外資系の不動産投資ファンドが日本市場に熱視線を送っている。円安の加速で、日本の不動産が「お買い得」になっているからだ。しかし、昨今の外資系ファンドは数千億円の高額な案件よりも数百億円の“小粒”を好むという。特集『貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛』(全13回)の#3では、外資系ファンドの最新の日本市場攻略法を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

超高層ビル「大手町プレイス」争奪戦で
外資系ファンドは慎重姿勢に転じる

 日本の不動産業界が注目した過去最大規模の取引の結果は、外資系ファンドの転換点になったといえるかもしれない。

 東京駅近くの超高層ビル「大手町プレイス」を巡る争奪戦。最有力ともいわれた米ブラックストーン・グループや米ゴールドマン・サックスといった外資系ファンドを抑え、ヒューリックを中心とする日本企業連合が、国内史上最高額の4364億円で落札した。

 当初、外資系ファンドが大手町プレイスの買い手として最有力候補に名前が挙がったのには理由があった。

 新型コロナウイルス感染拡大からの経済回復を後押しするため、各国の中央銀行は大規模金融緩和に踏み切った。ジャブジャブにあふれ返ったマネーが流入した外資系ファンドは、世界で相対的に割安な日本の優良不動産を買う気満々だったのだ。

 さらに今年度に入ってから円安が急速に進行したため、日本の不動産はさらに「お買い得」となり、外資系ファンドが攻勢を強めるとみられていた。

 しかし、世界的なインフレを退治するためにFRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が金融引き締めにまい進。これにより、不動産を含むリスク資産に逆風が吹いた。米国の景気後退への警戒も強まり、とりわけ欧米系の外資系ファンドは慎重姿勢に転じたのだった。

 もっとも、日本の不動産市場への投資熱が冷え込んだわけではない。日本銀行は大規模金融緩和を継続する方針を示しており、ある大手信託銀行幹部は「中長期的にも円安基調は変わらない」との見立てだ。つまり、外資系ファンドにとっては日本での資金調達環境は引き続き安定することになる。

 実際、ブラックストーン・グループ・ジャパンの橘田大輔代表取締役は、今年10月末に都内で開かれたイベントで「日本の不動産にまだまだ投資する」と強調するなど積極投資の意欲を隠さない。

 では外資系ファンドは、いったいどんな戦略を駆使して日本の不動産市場を攻略しようとしているのだろうか。

 次ページでは、外資系ファンドが繰り出す日本不動産市場の最新攻略法を解き明かす。かつては、「ハゲタカ」などとやゆされ、大規模な案件に群がる傾向があった外資系ファンドが、今や対照的に“小粒”な案件を好む事情とは。世界最大規模の米ブラックストーンなど、外資系ファンドの日本投資の最新動向も明らかにする。