国税庁は近年、海外へ転出する富裕層への課税・監視を強化している。そこへコロナ禍が重なった。富裕層の海外移住は急減しそうなものだが、新たな志向・ビジネスモデルを持つ「シン富裕層」の間では、むしろ加速している実態が浮き彫りとなった。特集『シン富裕層の投資・節税・相続』(全24回)の#8では、その背景にある大きな三つの要因に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)
国税包囲網の強化もコロナもお構いなし
富裕層の海外移住は加速
「海外移住を求めるシン富裕層の数が、2021~22年に爆発した」──。そう明かすのは、富裕層2万人以上の海外移住を支援してきたアエルワールドの大森健史代表取締役だ。
海外へ転出する富裕層に対する国税庁の課税・監視は、この10年ほどでどんどん強化された。主立ったものを振り返ると、その包囲網の狭まりぶりがよく分かる。
●14年:国外財産調書制度
5000万円を超える国外財産を保有する個人に、その内容の提出を義務付ける制度
●15年:出国税(国外転出時課税制度)
日本を出国して非居住者となる際に1億円以上の有価証券を保有している場合、それを譲渡したと見なして課税する
●17年:相続税・贈与税の納税義務延長
被相続人・相続人(多くの場合、親と子)のいずれもが日本に住所を持っていない状況が一定期間を超えた場合、海外財産は日本での課税対象ではなくなる。その日本不在期間を5年から10年に延長。
●18年:各国の税務当局間での自動情報交換
国際的な脱税・租税回避を防ぐため、経済協力開発機構(OECD)の加盟国が実施する制度。富裕層の金融口座の情報を各国の税務当局が国際基準に基づいて自動的に交換する。
こうした富裕層に対する課税・監視の強化に加えて、20年には世界中が新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。国際的な人の移動まで制限され、富裕層の海外移住熱はさぞ冷めたことだろうと思われた。しかし冒頭のように、コロナ禍の中でも「身軽な富裕層」であるシン富裕層の海外移住ニーズは落ち込まず、むしろ「爆発した」と大森氏は語る。