採用面接で大切にしたいwill/can/mustの重なり

 以上、「ワケあり人材」の採用&登用を機能させるためには、「経営層」「職場の人材」「ワケあり人材本人」それぞれのリフレーミングを行うことが大切だとお伝えしました。

 本稿の最後に、「ワケあり人材」の採用面接や登用面談時に大切にしたいポイントをお伝えします。

 それは、「ワケあり人材本人」の「will/can/must(やりたいこと・できること・やるべきこと)」と企業側の「will/can/must」を確認し、お互いの輪の重なりを紡ぐことです。

 具体的には、「ワケあり人材本人」の強みである専門スキルや知識(Can)、制約事情(Must)、制約を乗り越えてでも実現したい夢や目標(Will)と、企業側の企業理念や事業目標(Will)、会社が社員に提供できる支援内容や挑戦機会(Can)、社員として担ってほしい役割期待(Must)などが合致するかを双方が対等に話し合い、win-winの関係を構築できるかを見極めることが重要になります。

「ワケあり人材」の入社後は、双方合意で決めた役割期待や成果目標に向けて、仕事の進捗やモチベーション状態を把握しながら、雇用側は「ケア」と「フェア」を心がけることが大切になるでしょう。「ケア」は、制約事情に合わせた気遣いやフォローアップを、企業が「ワケあり人材」に行うことです。時間や場所に制約がある際には、それを解消するオプション――たとえば、フレキシブルな勤務時間の設定やテレワークの実施などを検討しましょう。

 そして、忘れてはならないのが「フェア」のコミュニケーションです。「ワケあり人材」は、補助要員ではなく、事業推進の戦力となる人材ですから、ミッション遂行や成果に対する的確かつ適切なフィードバックやアドバイスで彼ら彼女らの意欲やパフォーマンスを引き出していくことが求められます。

 私が在籍するmichinaruでは、趣味という枠を超えて没頭したいライフワーク(音楽)があり、仕事と音楽の両方を貪欲に追求する「ワケあり人材」が働いています。彼は、4年後の「NHK紅白歌合戦」出場を目指して、今年(2023年)、2作目のシングルをリリースしました。さまざまな音楽イベントへの出演など精力的に活動をしています。働く時間や場所に関して、一定のフレキシブルさを組織から了承してもらう一方、音楽を通じて得た知識やスキルを生かしてmichinaruのオウンドメディアやSNSの企画・運用など、クリエイティブ担当として、組織に新しい知や価値をもたらしてくれています。

 その他にも、ご家族の事情でフルタイム勤務は難しいものの、人材開発や組織開発に関する膨大な学術的知識と大学やNPOなどさまざまなコミュニティでの豊富な実践経験を生かして、企業向けプログラムの開発やプロジェクトファシリテーターを担う30代の社員も在籍しています。働き方の制約はあるものの、働く意欲にあふれる「ワケあり人材」が、企業成長の原動力や競争力につながる一例だと思います。

 社員に「働きやすさ」と「働きがい」の双方を提供することで、サステナブルな事業成長という果実を得る――生産年齢人口の減少など課題先進国である日本において、「ワケあり人材」の採用&登用が、これからの経営人事や企業成長の可能性を見出す選択肢のひとつになることを願います。