「ワケあり人材」の採用は人事戦略&経営戦略
本稿で改めて強調しておきたいのは、「ワケあり人材」の採用&登用は、「人事戦略であり、経営戦略である」ということです。前述のとおり、企業の価値や競争力を左右するものが、生産設備といった有形資産から人材などの無形資産に移り変わっていることを踏まえると、「ワケあり人材」の採用&登用は、人事部門だけの人事戦略ではなく、企業全体の経営戦略として捉えるべきです。
働く時間や場所に制約があっても、スキルや知識・経験、意欲を持った人材に、「制約を乗り越えられる安心(=働きやすさ)」と「知識や経験、意欲を思う存分発揮してもらう挑戦(=働きがい)」の双方を提供することで、企業は、「多様な人材が生む“事業成長の実現”」という果実を得ることができるのです。
では、「ワケあり人材」の採用&登用を企業成長につなげるための鍵は何でしょうか。まず、最初にするべきは、「経営層」「職場の人材」「ワケあり人材本人」のマインドの「リフレーミング」だと私は考えています。リフレーミングとは、従来の物事の捉え方を別の捉え方に変えることを意味します。
まず、経営層にとって大切なリフレーミングとはどのようなものでしょうか。それは、「ワケあり人材」を「福利厚生的な考え方ではなく、人事戦略・経営戦略」として捉えることです。ワケあり人材をどう補助・支援するかという保守的な発想から、どう活用し、企業の競争優位や事業成長の原動力にしていくかという積極的な発想に転換することで、経営としての打ち手は大きく変わります。
職場の人材(=上司・同僚)のリフレーミングも重要です。「制約」をネガティブに捉えるのではなく、制約があるからこそ新しい知やアイデアが生まれると考えること。ワケあり人材の強みや専門性に目を向けて、それらを積極的に活用していきましょう。「いてくれてもいいよ」という消極的な関係から「いてくれてありがとう」という、共に認め合う積極的な関係へとアップデートすることで、チームとしての生産性やメンバーのモチベーション、職場のエンゲージメントに大きな変化が生まれます。
「ワケあり人材本人」の、自分自身に対するリフレーミングも忘れてはなりません。単純なタスクや作業をこなすアシスタントではなく、プロジェクトやミッションを遂行する者としての認識や自覚を持つことが重要です。自身の役割や目標がより高次へと変わることで、さらなるモチベーションや知識、可能性が引き出されるでしょう。