働く意欲にあふれている「ワケあり人材」とは?

 はじめに、「ワケあり人材」という言葉の、本稿での定義をお伝えします。

「ワケあり人材」とは、「就労時間や場所において、何らの制約があり、フルタイム勤務や出社出勤といった通常の働き方はできないものの、独自のスキルや知識・経験を持ち、働く意欲の高い方」を指します。

「ワケあり」という言葉は、一般的にはネガティブなイメージもありますが、ここでの「ワケあり」はそうではありません。

 スキルや知識・経験、意欲があっても、時間や場所などの制約で選択肢が狭まってしまい、キャリアチャレンジに消極的になってしまう方々の声を、これまで、私は多く耳にしてきました。私自身も、パートナーの海外赴任が決まった際には、ライフ(家族)とキャリアのどちらを選んだらよいかという苦渋の決断を迫られたことがあります。パートナーの転勤に限らず、親の介護や子育てなど、働き方に制約があるという方が、みなさんの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか。

 共働き夫婦の約4000人を対象とした「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」(2022年2月公開/21世紀職業財団)では、総合職女性の約4割がマミートラック(子育てと仕事の両立はできているものの、昇進や昇格を諦めざるを得ない状態)に陥っていると回答しています。働くことへの制約は、女性に限ったものではなく、結婚・育児・疾病・親族の介護など、ライフステージの変化に伴い、誰にでも起こり得るものです。

 一方、経営や人事の立場からすると、活躍している人材が、何かの制約が生じたことで会社を去ることは本望ではありません。また、社員の離職・退職に伴って、新たな人材を採用・育成するには、時間やコストもかかります。

 能力や意欲を持った優秀な人材の不本意な離職・退職は、人手不足に悩む企業や人的資本経営を推進する人事にとってなおざりにできない重要な問題のひとつであると言えるでしょう。