誰でも「頭がいい人」のように思考するためのツール「フレームワーク」。だが世の中には、いろいろなフレームワークが溢れていて、「いざ使ってみよう!」というときにどれを使えばいいのかわからない…。こんな悩みをかかえている人も多いだろう。それを解決してくれるのが、『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』だ。厳選されたフレームワークだけを紹介し、使い方のコツをシンプルにまとめた非常に便利な1冊だ。本連載では、本書の内容から、「誰でも実践できる考えるワザ」をお伝えしていく。
PEST分析とは?
3C分析では、自社がある程度影響を与えうる、市場や競合などについて分析します。
それに対して、PEST分析は、通常、自社が影響を与えにくい世の中のマクロ環境を分析するものです。
もちろん、時には1つの企業の動向がマクロ環境、特に技術環境などに影響を与えることもありますが、通常は、一企業の活動がマクロ環境に与える影響は極めて軽微であり、ほぼ与えられた(Givenの)環境とみなすことができます。
PESTそれぞれの項目について、具体的には図表8-1のような点について分析します。
なお、昨今は地球環境への配慮から、エコロジーのEを加えて「PESTE分析」を推奨する人間もいますが、ここではオーソドックスなPEST分析を紹介しています。
PEST分析では、自社のビジネスに与える影響の大きな部分を特に意識して分析します。
マクロ環境はあまりに多岐膨大にわたるため、すべてを網羅しようとしても不可能ですし、費用対効果が見合わないからです。
また、PEST分析は現状を知るのはもちろんのこと、ある程度の未来(通常は3年や5年)を予測し、そこから逆算的に戦略立案や製品開発に生かすことも重要です。
たとえば、2023年現在であれば、2028年頃にどのような世の中になっているのかを予測し、それを見越して戦略を立てるということです。
事例で確認
例えば典型的な、首都圏に立地する中堅私立大学を想定してみましょう。彼らの数年後のPEST予測を行うと以下のようになるでしょう。
P:その時々の文部科学行政の影響を受けること自体は現在と変わらず。一定レベルの大学以外は職業訓練所的位置づけとなる可能性大。国立大学の文系学部縮小の受け皿となる可能性はある。将来的にはバウチャー制度などの導入も考えられる。いずれにせよ、この「P」の要素に最も影響を受ける可能性大
E:貧富の格差が広がれば、大学進学率が下がる可能性もあり。高い学費はまかなえない家庭が増える可能性も。また、現時点では都市に立地することが有利に働いているが、経済が停滞して地元志向が強まれば、自大学にとっては不利か
S:少子高齢化の流れに歯止めはかからない。そうした中で、大学に行くのが当たり前という価値観が変わる可能性もある一方で、ますます学歴社会が進む可能性もある。実学重視を世の中から期待される可能性あり
T:MOOCs(大規模公開オンライン講座)やChatGTPなどの生成AIに代表されるITを活用した教え方が広がる可能性がある。その結果として、競争力のない私立大学は淘汰される?
ここから言えそうなこととしては、このままでは競争力を失うのは間違いないので、カリキュラム等で独自性を出すか、他校とのアライアンスを進める必要がある、といったこととなるでしょう。
PEST分析だけでは具体的な戦略を導くまでにはいきませんが、他の分析と重ね合わせながら、世の中の流れに沿った(あるいは利用した)方向性を打ち出していくことが重要です。
・経営者や企画担当者が戦略を構築する上で前提となる世の中の動きを探る
・新しいニーズが生まれることを予測し、事業開発や新製品開発のヒントにする
1.
マクロ環境は予測が大事ですが、100%正確に予測することはできません。そこで、その企業や事業にとって重要なマクロ環境を選びだし、もし正反対の未来が起こったらどうすべきかを考えるという思考実験を組織的に行うことがあります。これをシナリオ・プランニングと言います(図表8-2参照)。シナリオ・プランニングでは、特に自社や業界に大きな影響を与えそうなマクロ環境を通常2つ抜き出し、マトリクスを作ることで「4つの未来」を想定します(状況によって、適宜増減を行います)。そしてそれぞれが実現したときに、自社がどのような戦略をとるべきなのかを前広に議論し、環境変化への備えを行っておくのです。
2.
PESTの各要素は独立しているわけではなく、複雑に絡み合って変化していく点にも注意を払ってください。たとえばインターネットやビッグ・データ解析などの技術は、ライフスタイルの変化をもたらすだけではなく、法の改正や経済全般にも変化を与える可能性があります。それぞれを「点」として眺めるのではなく、関連性を意識して立体的に頭の中に地図を描くことが必要です。