SAPはコンピュータソフトウェアの開発販売・コンサルティングで全世界6万人を超える人員を擁する、IT業界を代表するグローバル企業である。そのSAPにおいて、生粋の日本人ながら全社員の上位2%に6年連続で認定され、30歳時にSAPジャパンにおいて最年少で部長となった人物が金田博之氏だ。その後も会社員として圧倒的な結果を残し、36歳でSAPジャパンのチャネル営業を統括する責任者に就任している。
近著の『結果は「行動する前」に8割決まる』では、そうした実績の裏にあった各国のSAP社員との交流が一部紹介されたが、今回は金田氏がこれまで交流をもったアマゾン、グーグル、HP、マイクロソフトといったグローバル企業のトップ層のすごさの秘密を言語化してもらった。

グローバルのトップからのシンプルな質問

 2007年、外資企業のトップ・Dさんの来日にともない、空港の送迎から来日中の同行いっさいを任されたときのことです。
 早朝、黒塗りの高級車で運転手と二人、成田空港に向かいました。極度の緊張感。成田空港に着き、「どのゲートから出てくるんですかね」という運転手のひと言にすら、かえって緊張感も高まる始末。運転手とは連絡をとりつつクルマに待機してもらって、最短の距離と時間でピックアップする……といった段取りでした。
 当時の私から見ると、海外トップ層は本当に雲の上の怖い存在で、正直なところ、「一つのミスも許されない」とビクビクしていたのです。

 ところが、実際に会ってみると、まったくの予想外の人物でした。ドンと構えて怖い存在ではあるのですが、細かなことはまったく気にしないタイプ。
 都内のホテルに着き、そこからは一対一です。たぶん一生のなかで、こんなに緊張したことはなかったと思います。「何から話していいのか……。時候のあいさつから?『春で、サクラも満開です』あたりから切り出そうか。同行をまかされたのに、じつは社交辞令的な会話すらできない青二才と思われてはマズイ……」などと手に汗をかきながら言葉を探していたところ、彼が発したのが次の言葉でした。

「So, what is your business?」

 その一言に、私は唖然として、返す言葉をなくしたのです。
 当時、私はSAPのあるグローバル組織の日本代表でしたが、相手とは格がまったく違います。
 じつは、前日に当社の日本法人社内で“想定問答集”をつくり、私の立場で聞かれそうな質問にはすべて答えられるようにしていました。それでも、何から切り出そうか、何を話せば失礼にあたらないか、と私の頭の中は錯乱状態。Dさんはそのことをすっかり見抜いていて、だからこそ、一言、「ビジネスはどう?」と、私の立場にしては答えようのない一言を切り出してきたのです。

 「どう返答したらいいものか……」。まったく知らない素振りをするのは論外で、かといって、いいことだけを伝えるのも、「きれいごとを言うやつ」と値踏みされてしまうような気がします。
 そこで、私はそのとき自分が担当していたビジネスの展開状況の先行指標がどうなっているか、よい点・懸念材料をいくつか挙げて説明しました。
 その点では難を乗り越えた感があったのですが、ここで、もう一点、問題が出てきました。私は当時、インサイドセールス(内勤営業部門)の組織を立ち上げ、それは当社のグローバルグループでも立ち上がっていた組織なのですが、「なかでも日本は1歩先んじているという印象を与えよ」という上司の命を受けていたのです。一方で、「個人として自分を売り込みすぎるのはどうか」とも思い、この兼ね合いを解決した内容を英語でどう表現するかで悩んだのです。