「考え方をポジティブに変えることで、人生もより良い方向に変わっていく」という自己啓発のメッセージを、誰もが一度は見聞きしたことがあるだろう。しかし「経営の神様」と称された稲盛和夫は、「考え方」を変えるのではなく「人格」を磨けと説いた。さらに、「経営のハウツーのようなもの」を教えようとは思わないと断言していた。その理由とは何か(文中敬称略)。(イトモス研究所所長 小倉健一)
『人を動かす』のカーネギーも連なる
ポジティブ思考の系譜
考え方を変えることで、人生は大きく変わる可能性がある。自分の考え方や態度が、行動や選択、そして人間関係や状況に影響を与えるためだ。ポジティブな考え方や柔軟性、適応力を持つことで、困難な状況にも対処しやすくなり、人生をより良い方向へ導くことができるのかもしれない。
前向きで明るく、ポジティブな考え方を持てとアドバイスをするのは、米国の著名人や知識人に多い印象がある。
ポジティブ思考の系譜を振り返ってみよう。
まず、デール・カーネギー(1888~1955)だ。自己啓発やセールスマンシップ、企業研修、パブリックスピーキング、対人スキルなどのビジネス教育プログラムを開発した。著書『How to Win Friends and Influence People』(邦題『人を動かす』)は、全世界で1500万部を突破する大ベストセラーになった。
彼の有名なエピソードは、あるパーティーで、自分のことを何も話さずに相手の話をずっと聞いていたら、「話が上手だ」と褒められたというものだ。他人と良好な関係を築くためには、自分の価値観を押し付けず、相手の立場に立って考え、相手の良い面を見つけて認め、称賛することが大事なのだという。
自己啓発分野の第一人者となったカーネギーは、二十数年間で1万5000人以上のビジネスリーダーへコーチングを行った。