「従来の労働慣行のまま、成長性を維持することは難しい」――。こう気づいた企業から動き始めている。一例として、板金加工機世界大手のアマダは、2025年の給与水準を現行から15%引き上げる。高い専門性を持つ優秀な人材を確保するために、競争力ある賃金を提示しなければならないとの危機感は強いといえる。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
「付加価値に占める人件費の割合」が低い日本
最近、賃金を大幅に引き上げるわが国の企業が相次いでいる。その主たる要因は、人手不足だ。帝国データバンクが公表した、「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、正社員が不足していると回答した企業は51.4%に達した。
「賃金を引き上げ優秀な人材を確保しなければ、企業の成長性を維持することが難しい」といった経営者の危機感は強い。物価の上昇が続く中で、私たちの生活を守るためには賃上げは欠かせない。これまでの労働慣行に守られた、わが国の賃金体系は変化しつつあるともいえる。
国際比較を行うと、わが国の「労働分配率」(付加価値に占める人件費の割合)は依然として低い。国際労働機関(ILO)によると20年、わが国の労働分配率は56.9%、米国は60.4%、ドイツは63.4%、G7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)平均は60.2%だった。
背景には多くの要因がある。特に、バブル崩壊後、急激な株価・地価下落に直面した企業の多くが過度にリスク回避の心理を強めた。その状況から脱却するため、賃上げを進め、優秀な人材確保を急ぐ企業が増えている。
今後の注目点は、賃上げを持続的に続けられるかだ。そのために企業は、収益基盤を拡充し経営体力をつける必要がある。企業が収益の向上を実現し、賃金を引き上げることによって、労働市場の改革を実践することが日本の成長に不可欠だ。