脳にチップ移植でAIと融合!?
東大研究者が取り組む“大胆構想”

脳にチップ移植でAIと融合!?東大研究者の大胆構想に見る人間の未来【話題本書評】脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』(紺野 大地/池谷 裕二 著、講談社、税込1760円)

 本書ではAIの研究に取り組んでいる著者陣が、究極の研究テーマといえる「脳とAIの連結・融合」の最新動向を解説している。著者らが実際に取り組んでいるプロジェクトの内容や、「AIの現在地」と将来予測についても語られている。

 多くの事例から「ここまで大胆なことが考えられているのか」と驚かされるとともに、科学のあり方、人間のあるべき姿といった哲学的な問いについてさまざまな気づきが得られる良書だ。

 著者の紺野大地氏は、東京大学医学部附属病院老年病科医師。池谷裕二氏は脳研究者で、東京大学薬学部教授。二人は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主宰するERATOというプログラムの1テーマ「池谷脳AI融合プロジェクト」にて先端的研究に取り組んでいる(肩書や研究内容はいずれも執筆当時のもの)。

「脳とAIをつなぐ」と聞いて、かのイーロン・マスク氏が率いるニューラリンク(Neuralink)社の開発を思い浮かべる人も多いだろう。脳に直接電極を埋め込み、AIと接続することで、神経疾患や障害がある人たちの生活の向上、さらには人間の能力を拡張することを目指している企業だ。

 2016年に設立された同社は、2019年7月に上記の研究について発表し、世界に衝撃を与えた。その後、何度か研究の進捗を発表しているのだが、特に2021年4月に発表された「脳に電極を埋め込んだサルが、人工知能の力を借りて念じるだけで卓球ゲームをプレイした」という成果がメディアをざわめかせた。

 ニューラリンク社は本書の発刊後、2022年11月に「6カ月以内に人間で臨床実験を行う」と予告。2023年5月末には「FDA(アメリカ食品医薬品局)がニューラリンク社の臨床実験申請を承認した」と報じられた。

 同社の研究は、頭蓋骨に穴を開け、外科的手術で脳に電極を埋め込む「侵襲的手法」を前提としており、そのための手術ロボットまで開発している。今後は人間の脳にチップを埋め込む臨床試験が始まるとみられるが、この手法には被験者の身体的損傷につながる危険性が付きまとうことも確かだ。

 そのため著者の紺野氏は「リスクを考えると、しばらくは様子を見たい」としているが、「神経科学をテクノロジーやビジネスと組み合わせることで、ブレインテック(脳神経科学とITを融合させる研究分野)を広めようとしている」と同社の取り組みに一定の評価を示している。

 本書の著者らがメンバーの「池谷脳AI融合プロジェクト」では、ニューラリンク社による2019年の「衝撃の発表」より前、2018年10月から「AIを用いて脳の新たな能力を開拓し、脳の潜在能力はいったいどれほどなのかを見極めること」を大目的とした研究が進められている。

 主なテーマは「脳チップ移植」「脳AI融合」「インターネット脳」「脳脳融合」の4つだ。