イニエスタPhoto:Buddhika Weerasinghe/gettyimages

ヴィッセル神戸に5年間所属した稀代の司令塔、アンドレス・イニエスタが7月1日の北海道コンサドーレ札幌戦を最後に退団する。日本サッカー界に大きな足跡を残した39歳のレジェンドは、スコットランドリーグの得点王を獲得し、日本代表にも復帰したFW古橋亨梧(元・神戸所属)を大きく成長させた一人だといえる。約5年前の紅白戦で、FC岐阜(当時J2)から神戸に移籍したばかりの古橋に対し、イニエスタはさりげない助言を耳打ちしたという。古橋の飛躍のきっかけになった一言とは――。(ノンフィクションライター 藤江直人)

代表復帰の古橋亨梧と
神戸を去るイニエスタの「不思議な縁」

 不思議な縁を感じずにはいられない。元スペイン代表のレジェンド、MFアンドレス・イニエスタがヴィッセル神戸退団を表明した同じ日に、神戸でイニエスタの薫陶を受けて急成長を遂げ、スコットランドの名門セルティックへ羽ばたいたFW古橋亨梧の日本代表復帰が決まったからだ。

 イニエスタの神戸退団は、5月25日に神戸市内のホテルで行われた緊急記者会見で発表された。ひな壇で同席した神戸の三木谷浩史会長は、イニエスタへの感謝を込めてこう語っている。

「世界最高のプレーヤーだけでなく、その人柄や謙虚な姿勢も含めて、すべての人に尊敬され、愛されるプレーヤーが神戸に来て5年間を過ごしてくれた。クラブに、そして日本サッカー界に歴史的な貢献を果たしてくれたし、大きな財産になったと思っている」

 スペインで一時代を築いたイニエスタが、16シーズン在籍したバルセロナを退団。移籍が発表されていた神戸に合流したのは、ロシアワールドカップを戦い終えた後の2018年7月だった。

 その後にMF山口蛍、FW大迫勇也、FW武藤嘉紀ら日本代表経験者が神戸へ移籍してきた。いずれもイニエスタと同じチームでプレーしたい、という憧憬の思いに背中を押されていた。

 しかし、当時の古橋に彼らほどの実績はなかった。というより、ほぼ無名の存在に近かった。中央大学から加入したJ2のFC岐阜で2年目を迎えていた18年夏。イニエスタの加入が決まっていた神戸から、望外に映るオファーを受けて移籍を決めた。

 世界的なビッグネームがいる神戸へのステップアップ。岐阜の仲間たちから「うらやましい」という言葉と共に送り出された古橋は、新天地での挑戦へこんな言葉も残していた。

「いままでテレビ越しに見てきた選手だし、誰もが一緒にプレーしたいと望んできた。そのチャンスを得られたいま、いいところを学んで、どんどん吸収して今後につなげていきたい」

 もっとも、イニエスタとの出会いは序章にすぎなかった。古橋が神戸に合流した直後の8月11日に行われたジュビロ磐田戦。イニエスタが出場3試合目にして待望の来日初ゴールを決めれば、後半には神戸で初先発を果たしていた古橋も記念すべきJ1初ゴールで共演している。

 2-1で神戸が勝利した試合後。古橋はインタビューのなかで、イニエスタからかけられた“魔法の言葉”で自信を持てたと明かしている。