折り返しが迫るJ2戦線でFC町田ゼルビアが首位を快走している。15位で終えた昨シーズン後に、28年間率いた青森山田高校を屈指の常勝軍団へ育て上げた黒田剛監督が新指揮官に就任。当初は好奇な視線を向けられた、53歳になったばかりの新人監督はいかにして町田を変えているのか。躍進の背景の一つには、高校サッカーでは多用される一方、「プロでは通じない」とされてきた“意外な戦術”があった――。(ノンフィクションライター 藤江直人)
「元・高校サッカーの名将」が率いる
FC町田ゼルビアがJ2首位に君臨
もはや“春の珍事”と呼ぶわけにはいかない。開幕から2カ月以上が経過し、シーズンの折り返しも迫っているJ2戦線で首位をキープしている、FC町田ゼルビアの快進撃に対してだ。
これまでの町田を振り返れば、延べ8シーズン戦ってきたJ2で5度も2桁順位に甘んじてきた。昨シーズンも勝負どころの夏場以降で失速。J1昇格争いに遠く及ばない15位で終えている。
一転して今シーズンは17試合を終えた段階で、昨シーズンの14勝に迫る12勝をマーク。そのうち7つが1点差という勝負強さを発揮し、2位の東京ヴェルディに勝ち点7差をつけている。
さらに特筆すべきは、リーグ最少の8失点を誇る堅守だ。相手を零封するクリーンシートは半分以上の9試合を数え、複数失点を許した試合に至ってはゼロという状況が続いている。
町田が変貌を遂げた理由をひもとく上で、今シーズンから指揮を執る黒田剛監督の手腕を抜きには語れない。もっとも、開幕するまでの新指揮官は、どちらかと言えば奇異の目で見られていた。
前の肩書は高校サッカー部監督。1995年から率いてきた青森県の青森山田を全国優勝7度の常勝軍団に育て上げ、一方で保健体育科教諭と、校長と教頭に次ぐ肩書の主幹教諭も務めてきた。
安定した日常を捨て去り、結果だけを問われるプロの指導者へ52歳にして転身する。今シーズンから藤田晋氏がクラブの代表取締役社長兼CEOに就任するなど、親会社のサイバーエージェント色がより色濃く打ち出された新体制の象徴となった黒田監督は、同時に周囲から向けられていた視線を誰よりも理解していた。就任後の第一声として、町田の公式HP上でこんな言葉をつづっている。
「私はこれまでプロの指導者としての経験がなく、私の就任について不安を感じられることもあるかもしれません。ただ、長きにわたり培ってきた『勝者のメンタリティー』はどのカテゴリーであっても、失われるものではないと信じております」