毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという。
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

社長の7割が「親会社出身」、運用成績が業界平均を下回ってもクビにならず…日本の資産運用業が「草食系」である理由とはPhoto: Adobe Stock

日本の上場企業すべてを買収できる
資金力を持つ世界最大の資産運用会社とは

 私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の役員として、さまざまな国際的な金融のフォーラムや会議などに参加してきましたが、「会議の中心」が10年単位で変わってきたという印象を持っています。

 すなわち、2000年より前は商業銀行が中心的立場にいました。米国ではシティバンクやJPモルガン・チェース、英国ではバークレイズやHSBCなど商業銀行の経営者が会議で基調講演をしたり、パネルディスカッションにも登壇したりしていました。

 2000年前後からはM&Aなどの投資銀行ビジネスが花形となり、投資銀行(インベストメントバンク。日本で言えば証券会社)が金融界で主要な立場を占めるようになってきました。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン・ブラザーズといった金融機関の発言力が大きくなっていったのです。

 そして、世界は2008年、日本ではリーマンショックと呼ばれる世界金融危機を迎え、商業銀行や投資銀行は大きく傷つきました。

 その後の世界経済の回復と世界的な株高局面で、金融機関の序列はがらりと変わりました。すなわち、これまでの銀行、投資銀行に代わって、資産運用会社が金融界の中心的役割を担うようになってきているのです。

 資産運用会社の雄である米国のブラックロックがその代表選手であり、同社CEOのラリー・フィンク氏が金融業界で最もその発言の影響力がある人物と目されるようになりました。

 グローバルな会議、たとえば毎年1月下旬にスイスのリゾート地で開かれるダボス会議では、「ラリーが何を言うか」に、金融界、さらには経済界の注目が集まるようになっています。

 米国ブラックロックの運用資産残高は8.6兆ドル(約1118兆円)。世界最大のアセットマネジメント会社です[*1]。

 東証の時価総額が5兆ドル、上海証取と香港証取を足した中国上場企業の時価総額が11兆ドル、GAFAに代表されるテック企業が多数上場しているNASDAQの時価総額が18兆ドル[*2]。ブラックロック1社で、日本企業のすべて、または中国企業の約8割、あるいはNASDAQ上場企業の半分近くの株を買えるわけですから、その巨大さと影響力がおわかりいただけるかと思います。