300年以上の歴史を誇る中川政七商店は、工芸をベースにした生活雑貨の企画・製造・販売を手がけると同時に、企業や地域などのコンサルティング事業も展開する会社。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、同社のブランドを継承・発展させてきた中川政七さんが絶賛しているのが『理念経営2.0』という書籍だ。
長年にわたり理念経営を実践してきた中川政七さんと、同書の著者であり企業の理念策定・実装を支援する佐宗邦威さんのお二人に理念経営の必要性やそれがもたらす価値を語ってもらった(第1回/全3回 構成:フェリックス清香)。
KPIゲームからパーパスゲームへ
佐宗邦威(以下、佐宗) 中川さんとのご縁は、雑誌『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2019年3月号の「PURPOSE」特集号でお互いの記事が掲載されたことが始まりですよね。当時でもまだミッション・ビジョン・バリュー・パーパスなどの企業理念がそこまで注目されていたとは言えませんでしたが、中川さんは2007年からビジョンを掲げて経営をしてきたそうですね。なぜその段階でビジョンを掲げることにしたのでしょうか?
中川政七(以下、中川) 佐宗さんは『理念経営2.0』で、「会社とは群れである」「群れを崩壊させないために理念が必要である」と書いてらっしゃいますよね。でも、僕の場合は自分自身のモチベーションのためだったんです。家業に戻って最初の2、3年で自分の担当事業を立て直し、会社を黒字化したので、次の段階で経営者としてやることがなくなってしまったんです。この先20~30年、どうやってモチベーションを保ったらいいのだろうかと思ったんですね。
佐宗 「やることがなくなった」のがまずはすごいですが(笑)、ご自身の働く意義を確認したいという動機だったのですね。
中川 そうなんです。僕は理念がなかったら働くことが難しかったですね。世の中のみなさんは理念なしでどうしてそこまでがんばれるのだろうと、逆に不思議なくらいです。利益追求だけでそこまでがんばれるのは、すごいことだなって。
佐宗 多くの企業では、RPGゲームのように「この観点でのレベルを上げることはいいに決まっている」とルールがセットされていて、そのレベルが高ければ賞賛されるというようになっていますよね。いわば「KPIゲーム」です。
ただ、そのゲームを「無理ゲー」もしくは「クソゲー」だと感じる人も最近は増えているように思います。経営者も、資本主義のゲームの中で成長し、自分たちだけが力を手に入れて喜んでいていいのだろうかと悩む人が増えてきているようです。
中川 デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』も話題になりましたもんね。誤解を恐れずにいうと、今は会社のゲームが「KPIゲーム」ではなく「パーパスゲーム」に変わりつつある時代ということでしょう。社会が変わってきているから、会社のゲームを変更しないといけない時代だと思うんです。このパーパスゲームは、本質的な姿勢で取り組めば、社会にも働く人にも利益にも、いろんな面でプラスに働く、完成度が高いゲームです。このゲームのルールは多くの人が理解したほうがいい。そういう意味で、『理念経営2.0』は役立つと思うのです。
株式会社中川政七商店 代表取締役会長
1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任、2018年より会長を務める。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。現在は学生経営×地方創生プロジェクト「アナザー・ジャパン」や志あるブランドを世の中に届ける共同体「PARaDE」を発足。「カンブリア宮殿」「SWITCH」などテレビ出演のほか、経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』『経営とデザインの幸せな関係』『日本の工芸を元気にする!』など多数。最新刊『中川政七商店が18人の学生と挑んだ「志」ある商売のはじめかた』。