300年以上の歴史を誇る中川政七商店は、工芸をベースにした生活雑貨の企画・製造・販売を手がけると同時に、企業や地域などのコンサルティング事業も展開する会社。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、同社のブランドを継承・発展させてきた中川政七さんが絶賛しているのが『理念経営2.0』という書籍だ。
長年にわたり理念経営を実践してきた中川政七さんと、同書の著者であり企業の理念策定・実装を支援する佐宗邦威さんのお二人に理念経営の必要性やそれがもたらす価値を語ってもらった(第2回/全3回 構成:フェリックス清香)。
ビジョンを中期経営計画の出発点にする
佐宗邦威(以下、佐宗) 前回、2007年に中川政七商店のビジョンがつくられるまでの経緯をお聞きしました。
とはいえ、どんなにいい言葉やストーリーをつくっても、それだけでは社員に理念が伝わっていくところまではなかなかいかないですよね。中川政七商店は、その点で非常にうまくなさっているように感じます。老舗企業の歴史を背負いながら、未来志向で理念を持ちながら経営するのはとても大変なことだと思いますが、この点に関しては、どんな工夫をされたんでしょうか?
中川政七(以下、中川) これはもう、ひたすらこつこつやってきました。佐宗さんの『理念経営2.0』の言い方でいうと、「理念理解」に3、4年、「理念共鳴」に3、4年かけていて、「理念体現」はずっとやり続けなければ達成できないなと思っているところです。
佐宗 企業理念の伝播には3つの段階があるという、書籍のあの部分ですね。
①理念理解──理念を理解している状態。理念を聞いたことがある。言葉を言える
②理念共鳴──理念に共鳴している状態。理念に自分の物語を重ねられる。人に説明できる
③理念体現──理念を自分ごと化し、行動に落とせている状態。理念を行動で体現できている
中川 そうです。①、②の段階は比較的できていると思います。中川政七商店では、中期経営計画を年1回、社内で共有する場をもっています。2007年以降、その会の冒頭で必ずビジョンを見せて、「これを実現するためには、次の3つが必要です」というように、戦略をステップとして見せます。そのあと予算の話をし、5年後はこうなっていないといけないから、3つのステップを達成する具体的な行動として、今年はこれをやるんだ、というように伝えているんです。
企業としての戦略や今年取り組むこと、予算などが全部、理念を実現するための手段として一体になっているわけです。当時は中期経営計画を全部僕が書いてるからこそ、できたことなんですけどね。ここは佐宗さんに褒めてもらいたいなと思うところで(笑)、すごくうまくやれてきたと思うし、これができたから今の中川政七商店があると思っています。だから『理念経営2.0』の末尾に「執筆するにあたって特に参照した企業」の一社として中川政七商店の名前を挙げていただけたのは、本当にうれしかったです。
株式会社中川政七商店 代表取締役会長
1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任、2018年より会長を務める。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。現在は学生経営×地方創生プロジェクト「アナザー・ジャパン」や志あるブランドを世の中に届ける共同体「PARaDE」を発足。「カンブリア宮殿」「SWITCH」などテレビ出演のほか、経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』『経営とデザインの幸せな関係』『日本の工芸を元気にする!』など多数。最新刊『中川政七商店が18人の学生と挑んだ「志」ある商売のはじめかた』。