世界標準の経営理論』著者で経営学者の入山章栄さんは、佐宗邦威さんの著書『理念経営2.0』について、「日本中の経営者が絶対に読んだほうがいい、いや、ありとあらゆるビジネスパーソンがみんな読むべき」と絶賛しています。
経営学者と戦略デザイナーとして別の立場から企業を支援するお二人に、企業や働く人に伝えたいことを語ってもらいました(第4回/全4回 構成:フェリックス清香)。

企業が「暴走族と宗教」に学ぶべきこと

企業とは共同幻想である

入山章栄(以下、入山) 佐宗さんが先日上梓された『理念経営2.0』には、「会社とは群れである」「群れを崩壊させない方法」と、会社を鳥の群れに喩えて説明していますよね。とてもおもしろいと思ったんです。会社って、そもそもただの幻想ですよね。概念で「会社」と考えているけれど、別にタンジブルに実態があるわけじゃない。

佐宗邦威(以下、佐宗) ありがとうございます。あの「渡り鳥メタファー」は読者の方からも「わかりやすい!」と好評です。たしかに、そもそも法人格というのはそれ自体がバーチャルなものですし、おっしゃるとおり、会社というのは共同幻想だとも言えますね。

入山 たとえば、「ダイヤモンド社」は会社ですが、法人の概念があるだけで、実際には何をもってダイヤモンド社かわからないですよね。「社長=ダイヤモンド社」でも「神宮前の本社ビル=ダイヤモンド社」でもありません。今までは終身雇用制で法律などでも規定されていて、我々がそれを信じているから、会社は存在していただけなのです。

 ところが、これからは人が出入りする時代になります。となると、共同幻想をいかに作り上げるのかが大事になります。それに役立つのがミッション・ビジョン・パーパス・バリューなどの理念ですよね。理念が作れないトップの企業はもう生き残れません。それで、僕が最近よく言っているのが、「とにかく見習うべきは、暴走族だ」ということです。

佐宗 あはは! 暴走族ですか! たしかにすごい結束力で群れますよね。

入山 そうなんですよ。暴走族って、集団として存在する必然性はないじゃないですか。なのになぜか「ここは俺たちのシマだ」とか言って、群れるわけです。法律で決まっているわけでもないのに。そして行き場のない人たちが、「このリーダーの作るチームのカルチャーなら、バトルもあるけど一緒にバイクを運転して、最後は缶コーヒーでも飲んで楽しいだろうな」と、共感して集まってくるわけじゃないですか。

 だから、暴走族のリーダーはビジョンをある程度、言語化して共感してもらわないとならないんです。そしてなぜ、来週土曜日に河原でやる隣町のヤンキーとのケンカに意義があるのかをちゃんと説明しないと、仲間がついて来ない。みんな別に喧嘩なんかしたくないですからね。語りの力が必要なんです。

佐宗 なるほど。たしかにヤンキーの世界って、ナラティブ的なものがより重視される世界なのかもしれないですね。

企業が「暴走族と宗教」に学ぶべきこと
入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年より現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)などがある。