文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。
ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
得意なことなら褒めてもらえる
仕事選びにおいて、「好きなこと」でなければ、何をヒントにするべきか。それは「得意なこと」です。好きかどうかはさておくとして、「得意なこと」と「得意でないこと」で、どちらが仕事で成功できるか、答えは明白でしょう。
間違いなく「得意なこと」のほうが力を発揮しやすいし、結果的にうまくいきやすい。「得意なこと」をやって褒めてもらえたら、モチベーションも高まります。そうすると、もっと得意になっていく。
これを取材で語っていたのが、クリエイティブディレクターの水野学さんでした。「くまモン」で知られていますが、中川政七商店や茅乃舎、相鉄グループなど、たくさんのクライアントを抱える超売れっ子のクリエイターです。
水野さんの会社にはたくさんの若いデザイナーたちがいますが、彼らに仕事をお願いする基準を聞いたとき、水野さんはこう言われたのでした。
「それぞれが得意なことをお願いする」
デザイナーと一口に言っても、さまざまな仕事があります。企画を考える、デザインを組む、進行を管理する……。また、クライアントによって、デザインの傾向がまったく変わります。それぞれのテイストがあるのです。
水野さんは、そうしたさまざまな仕事について、得意な人にお願いする、と語っていたのです。なぜなら、そのほうが本人も力を発揮できるから。褒めてあげられるから。モチベーションが上がって、やる気も高まるから。
「好きなことをやりなさい」とはよく言われることですが、「得意なことをやりなさい」「得意なことで仕事を選びなさい」というのは、案外、言われないことのような気がします。
そして日本人はつい、得意なことよりも苦手なことに目が向いてしまう。苦手なことを克服することを考えてしまう。オールマイティでゼネラリスト的な働き方が好きだから、ということもあるのかもしれません。しかし、これでは得意が伸ばせない。
苦手なことを克服することよりも、得意なことを伸ばすことに頭を向けたほうがいいのではないでしょうか。なぜなら、そのほうが成功する確率は上がると思えるからです。得意なことを武器にできるから。
ただし、難しいのは、「得意なこと」も活かし方を間違えるとうまくいかない、ということです。というのも、デザインの仕事が多岐にわたっていることもそうですが、表面的に見えているのは、仕事のほんの一部分だったりするからです。
もっと言えば仕事の本質は、その得意とはまるで違うところにあったりすることも少なくないのです。
そうした仕事の本質こそを、しっかりと見ないといけないのです。
※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。