怪訝そうな女性写真はイメージです Photo:PIXTA

女性だけを狙ってすれ違いざまに肩をぶつけて歩く男は「ぶつかり男」と呼ばれ、少し前に話題になった。今年6月に入って、SNS上で久しぶりに、この「ぶつかり男」あるいは「ぶつかりおじさん」の存在が話題になった。きっかけはウェブ上に公開された漫画だった。(フリーライター 鎌田和歌)

女性にぶつかり
レスバで鬱憤を晴らす主人公

『アンチマン』(作・岡田索雲)という漫画がウェブ上に公開されたのは6月2日のこと。公開直後から話題を呼び、ツイッターなどのSNSで拡散されて話題になった。この漫画の解釈・読み解きをするブログを書く人も続々と現れ、それらもそれぞれ読まれている様子である。

 以下、ネタバレを含むため、ネタバレを回避したい方は、先に上記リンクから作品を読んでいただきたい。


 未読の人のために簡単に説明すると、主人公は中年の男性だ。

 幼い頃に母親が家を出て行ってしまい、現在は介護が必要な父親と二人暮らしだ。仕事は食品メーカーのPR担当のようだ。毎日の介護に疲れ、仕事を楽しんでいる様子もない。

 彼は、低浮上で張り合いのない日常を過ごしているように見える。その鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように差し込まれるのが、路上でスマホを見ながら歩く女性に対するぶつかり行為である。さらにネット上で、「ぶつかり男」の被害を嘆く女性たちに対して「被害者が女だけだってどうして言い切れるの?」「ぶつかってくるのは決まって歩きスマホする若い女だったよ」などと“レスバ(※)”を繰り広げる。そして、そのレスバでも追い込まれた彼は、いら立ちを身動きの取れない父親にぶつけてしまう。

(※)レスバトルのこと。SNS上で行われる言葉の応酬。

 全編が鬱々(うつうつ)としており、主人公も好感度とは正反対の位置にいる人物である。

 しかしなぜか人をひきつけ、さらに「一言言いたい」と思わせる何かがこの作品にはある。ネット上に書き込まれた感想を見ると絶賛だけではなく酷評も見られ、その両極端な反応が興味深い。

 ネット上で話題となった「ぶつかり男」や、ツイッターや匿名掲示板を頻繁に見る人なら既視感を持つであろう“レスバ”を題材にしているのだから、ネット上で話題となるのは自然とも言える。また、目つきや身振りまで詳細に書き込む作者の緻密な画風も相まって、さまざまな解釈を生んでいる。

 このぶつかり行為やレスバトルについても、主人公の男性の妄想であると読み解く解釈もある。実際に主人公の妄想と現実が入り混じる作品ではある。

 そして、このぶつかり行為が「現実」なのか「妄想」なのかの議論に付随するように、「ぶつかり男」は実際にいるのかどうかの議論が再燃した。