三菱UFJおよびニコンのCFOとして、毎年平均100名近い海外機関投資家と面談してきた徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

なぜ日本の取締役会はリスクテイクを歓迎しないのかPhoto: Adobe Stock

「企業の永続性」を「成長」より優先する日本の取締役会

 コーポレートガバナンス・コードは、取締役会がCEO以下経営陣の健全なアニマルスピリッツに基づくリスクテイクの提案を歓迎し、その果断な意思決定を支援することを求めています。

 しかしながら、2023年時点で、日本企業の取締役会において、CEOをはじめとする経営陣に「もっと積極的にリスクを取れ」と背中を押すような行動を取っているケースはほとんどないものと思われます

 日本の社外取締役は、株主価値向上につながる企業価値向上を最優先に考えるというよりも、企業価値向上につながる行動はCEO以下執行サイドの役割であり、みずからの役割は監査など執行に対するチェック機能にあると認識しているものと考えられます。

 ここで、取締役会の構成を見てみると、CEOなどの執行サイドの役員に加え、弁護士や会計士、官僚出身者や企業経営者から構成されているケースが多いことが分かります。

 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4─11①では、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有するものを含めるべき[*1]」だとされており、各社はこぞって他社の社長経験者を社外取締役に迎えています。

 その結果、他社の社長、会長経験者で、現在は「相談役」「特別顧問」などに就いておられる方々が、取締役会で中心的役割を担っている、というのが、日本の上場企業の平均的な姿になっています。

 CFO仲間の懇談会などでよく聞く話を総合すると、平均的に70歳前後のこうした方々は、長年、企業を率い、後輩に社長のバトンを無事に渡された成功体験から、企業の永続性を優先するお考えをお持ちの方が多いようです。また、中には、「ROEや株主価値を重視すべき」という昨今の風潮に心のどこかで抵抗を感じている方もいらっしゃる、という話も聞きます。

 誤解を恐れずに言えば、多くの社外取締役は、会社の継続性を優先し、企業がリスクアペタイトに乏しい状況を容認する、つまりリスクテイクよりは企業の安定性を重視する傾向があると言えます。

 このため、ISSやグラス・ルイスなどの議決権行使助言会社が「独立社外取締役を増やせ」といった外形標準的な要求をいくら企業側に突き付け、そのとおりになったとしても、コーポレートガバナンス・コードが期待しているような「社外取締役が中心となってCEOのアニマルスピリッツに火をつけ、リスクテイクの背中を押す」といったシナリオは期待しにくいと言えます。

 念のため、私のスタンスをお話しすれば、会社の永続性を重視する、という結論は多くの日本企業にとって妥当なものだと考えています。

 同時に、海外投資家と面談してきた経験から、取締役会でもっとリスクテイクによる企業価値の向上策や株価対策が議題として採り上げられても良いとも感じています。

 取締役会メンバーに「投資家的目線を持った人材」が複数いて、従業員や地域社会などさまざまなステークホルダーの利害を含む多角的な議論が行われ、その結果として経営方針を導き出すことが──たとえそれが従来と同じ結論だったとしても──重要ではないか、というのが私の考えです。