“イノベーションのジレンマ”を避けて企業に変革をもたらす「逆転の発想」とは新規事業を成功させるために、どうすればイノベーションを生み出せるのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

大企業が新規事業を成長させるのは、なぜ難しいのか。どうすればイノベーションを生み出せるのか。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、企業が新規事業を成功させるための考え方、スタートアップが大企業のアセットを活用して大きく成長する方策について、具体例をもとに考察する。

大企業の新旧事業の狭間で
今も起きている“ジレンマ”

 新規事業は多くの場合、イノベーティブであることが求められます。そこで大企業は、組織の規模やスケールメリットを生かしながらイノベーションを生み出すことが期待されるのですが、これはそう簡単なことではありません。

 1997年に書かれたクレイトン・クリステンセンの有名なビジネス書『イノベーションのジレンマ』にも、「単一の組織で、主力市場の競争力を保ちながら破壊的技術を的確に追求することは不可能である」「主力事業の競争力を維持したまま、同時に破壊的技術も追求しようとする。このような努力がめったに成功しないことは、過去の例が物語っている」との記述があります。

 それから四半世紀がたった今でも、この状況は解決していません。「今の主力事業はそのうち立ち行かなくなる。そこで新規事業を立ち上げようとしているが、新規事業が主力事業を脅かすことは避けたい」「主力事業から新規事業へスムーズな移行を促したい。ついては主力事業はできるだけ延命させ、新規事業は主力事業を破壊しないようなかたちで育ってほしい」──これらは大企業の方からしばしば聞く言葉ですが、正直「大変“虫のいい”ことを言っているなあ」と感じます。

 米国のデジタル通信システム企業・シスコシステムズ(シスコ)はイノベーションのジレンマを打破すべく、20年以上前に「スピンイン」戦略を取り入れていました。ジョン・チェンバース前CEOの時代に採用され、彼が退任した後は撤廃された手法ですが、どういう戦略だったのか振り返ってみましょう。