コロナ禍による工場稼働率の低下に続き、ウクライナ侵攻で国家安全保障上も注目されるようになった半導体業界。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、AIの活用で成長著しい業界大手・NVIDIAの30年の歴史からは学べることが多いという。NVIDIA、そして半導体産業に見る日本企業のあるべき姿とは。
再び注目される半導体業界
日本政府も製造強化に乗り出す
最近、半導体業界が再び注目されています。国家安全保障上の戦略的な意味合いも非常に強まっており、米国では中国への半導体の輸出を禁じたほか、自国内で半導体製造を行う取り組みも進めています。日本でも国内のメーカーや通信会社など大手8社が出資して、2022年に半導体プロセッサー(ロジック半導体)メーカー・Rapidus(ラピダス)を設立。政府が同社に3000億円超を支援しています。また台湾の半導体メーカー・TSMCの工場が2022年、熊本県へ進出したことも話題となりました。
半導体にはいくつかの種類があります。日本では従来、DRAM製造に強みがありましたが、価格競争となって投資が続けられず、競争力が落ちてしまいました。最後まで残っていたエルピーダメモリも、2013年にマイクロン・テクノロジーによる買収が完了しています。一方、NAND型フラッシュメモリーの領域では今でも強く、キオクシア(旧東芝メモリー)が世界シェア2位を維持しています。またアナログ半導体の領域では、特にセンサー系でソニーがシェアを持っています。
現在、世界的に需要が高く、最も不足しているのはロジック半導体です。CPUやGPUなど、コンピュータの頭脳を担う半導体なのですが、この領域では日本企業は強みを発揮できていません。そこで今回は政府も加わって国家プロジェクト的に強化が図られています。
実は、日本がDRAMやプロセッサーで強かった頃にも「超LSI技術研究組合」というプロジェクトがありました。これは官民合同でVLSIの製造技術の確立に取り組むというもので、1976年からの4年間で700億円の補助金が国から投入されています。このプロジェクトの成果は、1980年代の日本の半導体産業に隆盛をもたらしました。今回のプロジェクトも、同様にうまくいけばいいと願っているところです。