ヤマタノオロチとスサノオノミコトが戦う様子を再現した像ヤマタノオロチとスサノオノミコトが戦う様子を再現した像 Photo:PIXTA

出雲国(現在の島根県)は多くの神話の舞台となった地域だ。中でも「ヤマタノオロチ神話」や、古代の神が他の土地を切り離して引き寄せ、出雲国の一部にしたという「国引き神話」は有名だ。これらを完全なフィクションだと思っている人は多いかもしれない。だが、実際に現地を探訪し、その地形や自然に触れた筆者は、あながち「全てがウソ」とは言い切れないことに気づいた。その根拠を詳しく解説しよう。(作家 黒田 涼)

「ヤマタノオロチ」「国引き」神話は
実話に基づいていた!?

 古代神話の中で、出雲(現在の島根県東部)は重要な位置を占めている。この地が舞台の「ヤマタノオロチ」「国引き」は多くの人が知っている神話だ。厳密には出雲ではないが、近隣の因幡(鳥取県東部)が舞台の「白ウサギ」もおなじみの神話である。

 筆者はこれらの神話について、かなりの部分に「出雲開拓史の記憶」が反映されていると考えている。「ヤマタノオロチ」も「国引き」も現実に起きた事実や現象の比喩、象徴化ではなかろうか。

 仁徳天皇の記事でも書いたが(『大山古墳に眠る「仁徳天皇」の知られざる功績、大阪の礎を築いたといえる訳』)、神話はその全てが「ウソ」だとは言い切れない。

 日本で最初のフィクション作品は、9世紀後半~10世紀前半にまとめられた「竹取物語」だといわれる(これも何かの史実の象徴化かもしれないが)。

 本当に竹取物語が「日本最古の物語」だった場合、それよりもはるか昔の時代を生きた古代人は、全くのゼロから「虚構」の物語を作れないと考えられる。古代人が過去の事実や経験を伝える中で脚色が加わり、神話が出来上がっていると考えるのが妥当だ。

 そうした観点から出雲の地形や開発の歴史を見ると、神話が驚くほど現実を象徴化していることがわかる。

 まずスサノオノミコトのヤマタノオロチ退治を見てみよう。高天原(たかまがはら)を追われたスサノオノミコトは出雲に降り立ち、そこで「娘が八頭の大蛇の怪物に食われてしまう」と泣く夫婦に出会う。

 スサノオは娘との結婚を条件にオロチを退治し、切った尾からアメノムラクモノツルギを見つけてアマテラスオオミカミに献上する。これがのちの三種の神器の一つ、草薙剣(クサナギノツルギ)である。このヤマタノオロチ、実は出雲に行けばすぐに出会える。