新しいパソコンに、砂糖とミルクたっぷりの
コーヒーを飲ませてしまい……

「やっぱり新しいパソコンはいいなあ。サクサク作業が進むぞ」

 7月上旬。Bは軽快な手つきでキーボードをたたきながら取引先への請求書を作成し、メール発送を行った。パソコン本体の処理能力が上がったことに加え、A社長に頼んで最新の業務処理ソフトを入れてもらったので、これまで半日かかっていた一連の作業が1時間で全部終了するようになったのだ。

 午後2時、Bは仕事の手を止めて台所へ向かうと、自分専用の大ぶりなマグカップを戸棚から取り出した。そして持参したスティックコーヒー1本と砂糖スティック3本、コーヒーホワイト3個を入れた極甘ミルクホットコーヒーを作り、机上のキーボード横にある空きスペースに置いた。そのとき、隣室で作業をしていた先輩社員が総務フロアの入り口で叫んだ。

「B君、○○社から請求代金について内訳確認の電話が入ってるから出てくれないか?」

 Bが慌てて受話器を取ろうとしたとき、腕がマグカップに当たって倒れ、中に入っていたコーヒーがみるみるうちにキーボードの上にあふれた。

「やばい!」

 Bは相手と通話しながら、ズボンのポケットからハンカチを取り出し慌てて拭き取ったが、大量の砂糖とコーヒーホワイトのせいでキーボードはベタベタに。電話が済むといったんパソコンの電源を落とし、さらに隅々まで拭き取った後、再びパソコンの電源を入れてみたが、「ビーブー」と大きな音がしたきり起動しなくなった。

「……もしかして、壊れた?」

 頭の中が真っ白になったBはすぐにフロアを出て、先輩に事情を話し、助けを求めた。先輩はいろいろ手を尽くしてくれたが、二度とパソコンが立ち上がることはなかった。