「重要取引先の後継者」の多くが
営業現場を知らず30歳前後で退職
「カチョサン、疲れてるネ。ダイジョブ?ファイトダヨ!」
エレベーターに乗ってきた女性から、カタコトの日本語が聞こえてきた。
彼女は中国籍の営業担当総合職で、2年前に新卒で入行した陳さんだ。私が在籍しているみなとみらい支店は代々、外国籍の新卒採用者が配属される。日本の大学や大学院に留学し、母国に帰らずそのまま日本企業に就職する若者だ。何年か日本で暮らしていているが、少しカタコトな感じがかえって愛嬌(あいきょう)を感じさせる。
日本のアニメや音楽が大好きで、いつか日本で働きたいというのが、陳さんの小さな頃からの夢だったと聞いた。日本語や日本の文化を学び、日本の大学で金融論を専攻。就職活動では銀行を志望していたらしい。こういった形の採用はまだあまり多くないものの、大企業では一定数いると聞く。今後もさらにグローバリズムが進み、増えていくのだろう。
企業は、こういった採用で何を狙いとしているのだろうか?外国籍の社員を一定数確保すれば、はやりの「サスティナブル」な「多様性」で評価されるのだろう。ただし、まだまだ前時代的な習慣や閉塞感が見受けられる日本の銀行業界は、外国人の目にどのように映っているのだろう。
銀行には昔から「お飾り人事」という言葉がある。本来は事業に関する意見などを聞くアドバイザーとして、芸能人や元スポーツ選手が社外取締役などに就任する際に使う言葉だ。彼らは企業のイメージアップ、社外アピールの材料として使われて、文字通り「お飾り」となる。
たくさんの支店を全国に抱えているメガバンクでは、各支店に重要な取引先がある。たまに、取引先の社長から支店長へ直々に、自分の子どもを新卒採用するよう頼まれることがある。人事関係の詳しいことはよくわからないが、気がつくとご子息、ご子女の内定が決定したと聞かされることも少なからずある。
バブル採用の頃は、元気があれば内定がもらえた。そんな時代とある意味変わらないかもしれないが、令和のこの時代に「重要取引先の後継者」というだけで内定がもらえるというのも、やはりどうかと考えてしまう。
そしてたいていの場合、彼らは営業現場に配属されず、本部の企画部門などに置かれる。さらに多くの場合、家業を継ぐために30歳前後で退職となる。営業の最前線で働く経験をさせず、数字に追い立てられない部門に配置して、取引先への義理を果たしていくわけだ。