そして、気持ちや考えを相手に伝えた方が自分を大切にしていると判断したら、それを正直に、わかりやすく、相手を大切にする気持ちを込めて表現してみます。

 その結果、相手はあなたに同意することもあれば、同意しないこともあるでしょう。それが人と人との自然なやり取りであり、同意されず葛藤があるときは、互いに歩み寄りの話し合いを続けることになります。

「相手に逆らうと嫌われる」「生意気だと思われる」、そうしたら「友だちはできなくなる」し、「物事がやりにくくなる」といろいろ想像してがまんするとき、人は葛藤を避け、相手が嫌な思いをしないように動こうとしているのでしょう。

 しかし、それは無意識のうちに自分の考えを明確にすることをやめ、自分を軽視していくことになりかねません。それは、アサーティブでもなければ、自然体でもないでしょう。

コミュニケーションは
取引ではない

 自分も相手も大切にする。

 それがアサーションの基本ですが、「自分も相手も大切に」と説明すると、ビジネスの世界では、「アサーション=ウィン・ウィンの関係」と受け取られることがあります。

 ウィン・ウィンとは、「相手も自分も勝つ」「双方が利益を得る」という意味ですから、アサーションもウィン・ウィンも同じようなものだと受けとめられるのでしょう。

 ところが、アサーションはウィン・ウィンとは本質的に異なります。まず、アサーションでは、「ウィン・ルーズ」(勝ち負け)といった考え方をしないからです。

 ビジネスの現場では、「双方が満足する」取引が必要で、ウィン・ウィンの関係をつくるために、実際、「勝つ」ことを中心に物事が進みます。

 こちらが勝っても、相手が不満に思わないようにうまくやろう。こちらが思い通りの成果を獲得し、かつ相手が気持ちよく終わるにはどうするか……。こうしたおだてやごまかしなどの策を弄して、いかにも「相手を大切に」したように繕うこともあります。

 これは、計算に基づいたコミュニケーションであり、「相手を大切に」した関係とは言えません。