相手の顔色を気にして、言いたいことを飲み込んでしまう人は少なくない。波風を立てないコミュニケーションは誰かから嫌われることもないが、その半面、長続きする深い関係へと発展しないのだ。自分も相手も、思いに蓋をせず、言いたいことを伝え合う「アサーション」の真髄とは。本稿は、平木典子『言いにくいことが言えるようになる伝え方 自分も相手も大切にするアサーション』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。
コミュニケーションを
通して人間関係をつくる
上司からパワハラを受ける、友人に振り回される、パートナーから暴言を吐かれる……多くの人は、人間関係をつくる試みの中で、がまんすること、「思い」を抑え込むことを強いられます。
言いたいことをがまんし、「思い」を封じる努力は、いわば人間関係への配慮と言っても過言ではないでしょう。
人は未熟な状態で生まれる生き物であり、人間関係の中で育てられ、助け合いながら生きていきます。「そんなことは当たり前だ」と思われるでしょうが、案外多くの人が、この基本を忘れているようです。
常識に縛られず、目の前にいる人を大切にして、しかもがまんしないで、いかに人間関係をつくっていくか……。効率と競争が重視される時代、物事を「速くたくさん」進めることが要求される中で、人間関係は二の次にされ、それゆえにますます仕事上のつまずきや息苦しさが増えています。
上下関係の息苦しさの中、そのことにいち早く気づいてきた社会学、哲学、そしてカウンセリングの世界では、人間関係に対して、あらためて問いかけを始めました。
「人間関係をどうするか」ではなく、「そもそも人は人間関係の中に生まれる」という基本に戻って、「関係性をつくって生きるとは、どういうことか」という問いを投げかけたのです。
人間の生き方を「関係性」の視点で考え直すと、コミュニケーションが大切になります。
つまり、人間はコミュニケーションなしには生きていけないこと、そして、コミュニケーションを通して関係をつくるために、何はさておき「互いに思いを伝え合うこと」が必要です。
ただ、「思い」を抑えがちな人にとって、自分の意見を言ったり、反論を表現したりすることは、慣れないことです。その結果起こる葛藤や相手からの反撃は、恐ろしく、一層、慣れないことに対応しなければならない困難をかかえることになるでしょう。
ところが、そんな思いをしないで成り立つやり取りがあります。それは「アサーション」。「自分も相手も大切にする自己表現」という意味を持つコミュニケーションの考え方と方法です。
第3の自己表現
「アサーション」
アサーションとは、立場や役割を大切にしながらも、互いを一人の人間として大切にすることであり、そんな自己表現がアサーティブな自己表現です。
アサーティブな自己表現は、がまんしたり、がまんさせたりすることがないやり取りです。
がまんする人、思いを抑えてしまう人は、まず相手のことを考え、配慮してから、自分の態度を決める傾向があります。
ところがアサーションでは、まず自分のことを考えます。それはわがままでも身勝手でもなく、自分の気持ちや考えがわからないと、話にならないからです。