ウクライナ戦争が始まってから500日がたった。プーチン大統領はGDP(国内総生産)の伸びを強調するが、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏はロシア国民の間に広がる「不安」を指摘する。戦況は膠着(こうちゃく)し、通貨ルーブルの急落、巨大な財政赤字、輸出減少という問題を抱える。そのため、プーチン大統領は「プリゴジン氏が主張していた戦術」への変更を迫られているという。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
ロシアへの制裁、欧米企業の撤退は
ロシア国内に何をもたらしたか
「プリゴジンの乱」が未遂に終わってから5日後の6月29日夕方、プーチン大統領はモスクワで「新しい時代のための強い理念」というフォーラムに出席しました。このときのプーチン大統領の発言は、ウクライナ戦争絡みでロシア情勢を分析する際の重要資料になるので、引用しつつ解説します。
全体会議に先立ってプーチン大統領は、欧米製品に取って代わることに成功したロシア企業への支援を目的とした、国内最優秀新ブランドコンテストの受賞者の展示を視察しました。プーチン大統領の要請で今年初めて開催されたこのコンテストには、「ハイテク」「情報技術」「クリエイティブ産業」「消費財」「食品」の5部門があり、2万3000件の応募があったということです。
プーチン大統領は、全体会議における演説で、
と語り、ロシア経済の現状について述べました。
ロシアのGDPは、昨年5月から今年4月までの1年間で5.4%増加しました。これはまずまずの数字です。製造業に関しては、12.8%という2桁の伸びを示しています。製造業の成長は素晴らしいです。防衛産業のおかげだけでなく、他の関連産業も成長しています。そしてこれは、近年で最も低い失業率と低いインフレ率を背景にしています。これは良い出来事であり、良い結果です。
次ページからは、プーチン大統領が目指す国会総動員体制と、ロシア国民の間に広がる「不安」を佐藤氏が指摘する。戦況は膠着し、ロシア経済は、通貨ルーブルの急落、巨大な財政赤字、輸出減少などの問題が拡大しつつあり、ロシア国民も間もなく、問題を実感せざる得なくなるという。