民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏通信アプリ「テレグラム」より

米紙「ワシントン・ポスト」で、ロシアの特殊部隊の一部が「ほぼ全滅した」と報じられた。元外交官で作家の佐藤優氏によると、「この特殊部隊は厳しい訓練を受けたエリート中のエリートであり、プリゴジン氏が率いる民間軍事会社ワグネルのような素人集団とは比較にならない」という。「ほぼ全滅」の実態とは。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

厳しい訓練を受けたエリート中のエリート
ワグネルのような素人集団とは比較にならない

 この連載では、世界を飛び交う情報の受け止め方や、その裏に潜む意味の読み取り方も解説しています。4月14日、米紙「ワシントン・ポスト」は次のように報じました。

 ワシントン・ポストが入手した米国の機密情報によると、ウクライナ戦争によってロシアの秘密部隊であるスペツナズは壊滅的な打撃を受け、その再建には何年もかかることが判明した。
 この結果は、メッセージングプラットフォーム「Discord」を通じてインターネット上に流出した機密資料の中に含まれており、これまで報告されていないものである。米政府関係者は、ロシア軍司令官が特殊部隊に過度に依存していることが原因であり、特殊部隊は前線の歩兵編成の一部として使用されている。(中略)
 情報傍受を引用した資料では、ある部隊(第346部隊)だけでも、「900人が配置されているうち、125人しか活動できず、旅団全体をほぼ失った」と評価している。

 スペツナズと聞けば特殊部隊が連想されがちですが、ロシア語の「スペツィアルロエ・ナズナシエニ」を縮めたこの言葉は、「特命」や「特殊任務」という意味にすぎません。何らかの特命を受けていれば、狙撃兵もテロ対策部門もスペツナズなのです。

 ロシアには、内務省の特務機関や連邦保安庁のスペツナズもありますが、通常は「ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)」を指します。軍の中のインテリジェンス部門ですから、部隊のロゴに闇夜に活動するコウモリが描かれている通り、内情が不透明な組織です。兵器売買で裏金をつくる、死の商人でもあります。ウクライナ戦争に関わっているスペツナズは、このGRUだと思われます。

ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の特殊部隊(スペツナズ)のエンブレムロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の特殊部隊(スペツナズ)のエンブレム

 厳しい訓練を受けたエリート中のエリートなので個人の能力は非常に高く、プリゴジン氏が率いる民間軍事会社ワグネルのような素人集団とは比較になりません。