「うぉっ、眼が小さい。キタッ!」と、洞窟内で絶叫した記憶があります。トラップによる動物採集は一見すると受け身の調査方法で、成果は「運」次第のように思われることもありますが、私はトラップの設置も適当に投げ入れるのではなく、洞窟地下水域で素潜りをして洞内の環境を調べ、「何か採れそうな場所」にしかけていました(これを「攻めのトラップ」と呼んでいます)。ですから、この発見は運ではなく、必然であったと思っています。
発見の翌年、2005年には、千葉県立中央博物館の駒井智幸博士と共同で新種記載論文が出版され、和名として「ウリガーテナガエビ」と名付けることができました。「ウリガー」とは宮古島の言葉で「降りる井戸」を意味していて、陥没ドリーネ(洞窟の天井の一部が崩落し、円形状の竪穴ができた地形)の底にある地下水域のことを指します。
ウリガーは、上水道が普及する以前は宮古島の人々の命を支える大切な場所でした。また、洞窟調査を実施するためには、洞窟や井戸の場所を教えてもらったり、神聖な場所である場合には一緒にウートートー(拝み)していただいたりと、地域の人々の協力が不可欠でした。
その一方で、現在の私たちの便利な暮らしのなかでは、洞窟地下水(ウリガー)のことを思いめぐらすことも少なくなってきているので、そのうち、このウリガーという言葉が、その環境と共に失われてしまうのではないかと心配にもなっていました。そこで、「ウリガー」の名前を付けることにしたのです。
テナガエビ属のエビ類は、世界中に200種以上が知られていますが、地下水性の種(眼が退化あるいは退化傾向を示している種)は非常に少なく、ウリガーテナガエビの記載当時は世界で7種目の発見で、かつ、東アジア地域からの初めての発見となりました。ウリガーテナガエビの発見は、琉球列島に未知の洞窟性動物が存在することを如実に示したもので、その後、私が洞窟の研究を続けるための大きなモチベーションとなりました