「ゲームのルール」を書き換える

 あの胸がスカッとするような小林尊の成功を、ホットドッグの早食い競争以外の、もっと有意義なことに応用できないだろうか? できるはずだ。フリークみたいに考えれば、彼のやり方から広く応用できそうな教訓を、少なくとも2つ引き出せる。

 1つは、問題を解決する方法全般に関わる教訓だ。コバヤシは解決しようとしている問題を、自分なりにとらえ直した。ライバルたちはどんな問いを立てていただろう?

 ひと言でいうと、「ホットドッグをもっとたくさん食べるにはどうする?」だ。

 コバヤシはちがう問いを立てた。「ホットドッグを食べやすくするにはどうしたらいい?」この問いをもとに実験を重ね、フィードバックを収集して、ついにはゲームのルールを書き換えることができた。問題をゼロベースでとらえ直したからこそ、新しい解決策を見つけられたのだ。

 大食いは普段の食事とは根本的にちがう活動だと、コバヤシは考えるようになった。大食いはスポーツだと彼は言う。たぶんたいていの人が悪趣味だと思うようなスポーツだけれど、それでも特別な訓練と戦略、肉体的・精神的な準備が必要だという点で、ほかのスポーツと変わりない。

 早食い大会を普段の食事の延長線上にあると考えるのは、マラソンを散歩に毛の生えたものと考えることくらい、彼にとっては違和感のあることだった。そりゃたいていの人はよく歩くし、必要なら長いあいだ歩き回ることもある。でもマラソンを完走するのは、もうちょっと複雑な仕事だ。

 大食いのような問題をとらえ直すのは、教育制度の崩壊とか貧困の蔓延のような問題に比べれば、ずっと簡単だと言われればそれまでだが、そういう複雑な問題にとりくむときだって、コバヤシみたいに問題の核心を鋭く把握することは、よい出発点になる。