キャンペーンを中止したバドライトは
売上高が約3割減少
米国で一番人気を誇るビールブランド「バドライト」は若年層の顧客に向けてアピールするために、TikTokで1000万人以上のフォロワーを獲得しているインフルエンサーで、トランスジェンダー女性(以下、トランス女性)のディラン・マルバニーさんをプライド月間に合わせたプロモーションに起用することを決めた。
元ミュージカル俳優の彼女は2020年にTikTokアカウントを開設し、その数年後にトランスジェンダーであることを公表した。
そしてマルバニーさんは2023年4月1日、ソーシャルメディアに投稿した動画の中で、トランスジェンダー公表1周年を記念してバドライトから自身の顔が描かれた特製の缶を贈られたことを明かした。
すると、一部の人たちからは「乾杯」などの書き込みが入ったが、一方で保守派の批評家や著名人などから猛反発を受けた。彼らはトランス女性とパートナーシップを組んだバドライトを激しく非難し、ボイコットを呼びかけた。
その中でも特にショッキングだったのは、トランプ前大統領の熱烈な支持者として知られるミュージシャンのキッド・ロックの動画だった。彼はトランプ氏の選挙スローガンである「MAGA(アメリカを再び偉大に!)」の帽子をかぶりながら、大げさにバドライトの缶を銃で撃ち、アンハイザー・ブッシュの経営陣をののしったのである。
こうした状況を受けて、同社はマルバニーさんの起用に関わったマーケティング幹部を休職させ、キャンペーンを取りやめた。6月1日のCNBCの報道によると、バドライトの売り上げはそれ以来低迷し、5月20日までの週の販売量は前年同期と比べて29.5%減少したという。
バドライトが中止を発表した後、同じように保守派から攻撃を受けていた小売業のターゲットも、一部の店舗からプライド商品の一部を撤去することを明らかにした。その中には性別適合手術を受けていないトランス女性が着用するタックデザインの水着、LGBTのシンボルであるレインボーをモチーフにしたアイテム、「Love is Love」とプリントされたTシャツなどが含まれていたという。
ターゲットは撤去の理由として、「一部の商品が床に投げ捨てられるケースが増え、店で働く人たちの安全と心身の健康を損なうような脅迫や迷惑脅威があったため」と説明した。
このようにプライド関連の企画や催しを中止する企業が相次ぐ一方で、批判や攻撃を受けてもそれに立ち向かい、キャンペーンを続ける企業もあった。両者の違いはどこにあるのか、そして、それはそれぞれの企業の評判や業績、さらにLGBTコミュニティーにどんな影響をもたらしたのか。