ジェンダー平等を貫いた
ナイキとノース・フェイス
スポーツ用品大手のナイキはバドライトと同じく、トランス女性のマルバニーさんとコラボしてプライドキャンペーンを行った。
そして4月5日、マルバニーさんが同社のスポーツブラとレギンス(腰から足首を覆うファッションアイテム)を着用した姿をインスタグラムに投稿すると、保守派からの怒りや非難のメッセージが殺到。その中には英国の元五輪代表水泳選手も含まれていた。彼女はナイキの決定に失望したとし、ボイコットを呼びかけるとともに、トランス女性の女子競泳参加禁止を改めて求めたという。
しかし、ナイキは企画を取りやめることなく、この事態に毅然としてかつ冷静に対応した。
同社はコメントを発表し、怒り狂う人たちにこう呼びかけた。
「あなたはコミュニティーの成功にとって不可欠な要素です。前向きで建設的な議論に貢献するコメントを歓迎します。優しくなって、インクルーシブ(包摂的な、みんな一緒に、などの意味)になって、互いに励まし合いましょう。ヘイトスピーチやいじめ、そして多様で包摂的なコミュニティーの精神に反するその他の行為は削除の対象になります」
このコメントには何があってもLGBTの人々を支援するという同社の強い意思と信念が感じられる。
また、アウトドア用品会社の「ノース・フェイス」も攻撃を受けたが、キャンペーンを中止することはなかった。
同社は2023年5月、ドラァグクイーン(女装パフォーマー)で環境活動家でもあるパティ・ゴニアさんと提携して、アウトドアを楽しむよう促すための「プライドの夏」キャンペーンを行うことを発表した。
すると、すぐに保守派の政治家や批評家らの怒りのメッセージが殺到したが、同社は「私たちは、アウトドアは全ての人にとって快適で、公平かつ安全であるべきだと考えています。ゴニアさんと提携したことを光栄に思い、感謝しています」とのコメントを発表した。
同社は経営理念を貫くと同時にパートナーのゴニアさんを守ろうとしたのだが、それは企業の社会的責任として重要である。
「中傷と戦うゲイとレズビアン同盟(GLAAD)」のサラ・ケイト・エリス代表は、「反LGBTの暴力や憎悪が広まらないようにするために、企業のリーダーがLGBTの従業員や消費者の“ヒーロー(英雄、お手本)”として立ち上がり、過激派の攻撃に屈しないようにすることは非常に重要である」と述べている。
この考えは世論調査でも支持されている。
LGBTへの差別的表現などのメディアモニタリングを行う非営利組織のGLAADが2023年2月にLGBTではないと自認している成人約2500人を対象に行った調査では、そのうちの約70%が「企業は雇用や広告、スポンサー活動などを通して、LGBTコミュニティーの支援とインクルージョンを公式に行うべき」と考えていることがわかったのだ。
ちなみにインクルージョンとは、企業が人種、性別、性的指向などの多様な人材を受け入れて活用するだけでなく、彼らが職場で能力を発揮できるような環境づくりをしていくことである。